「・・似合います。よかった、」
初音は優しく微笑んだ。
少し気恥ずかしくなって真緒はうつむいた。
真緒。
真緒がホクトグループの社長の娘って聞いたらみんなが色んなこと言ってくるかもしれない。
ちやほやされるかもしれない。
おまえ自身を見てくれない人もいるかもしれない。
色んな人が寄ってくるかもしれない。
誰がおまえのほんとうを見てくれているのか。
それをきちんと考えなさい。
急に高校生の時に父に言われたことを思い出した。
なんとなく女優の仕事に興味があってオーディションを受けると言い出した時にそう言われた。
なんとなく、だったのでそんなに覚悟もなかったしそんな風に言う父の本当の気持ちもよくわかっていなかったかもしれない。
わりと社交的な性格だったので友達はたくさんいたけれど、その人たちがどういう気持ちで自分が近づいているのかなんて考えもしなかった。
仲良くなるとホクトの娘である自分にその「コネ」を求める人もいた。
「どうか。しましたか?」
無口になってしまった彼女を初音は怪訝そうに見やった。
「え?ううん。なんか。今日は今までずっと思い出さなかったことばかり思い出してしまって。どうしたんだろう、」
真緒は慌てて笑顔を作った。
「この前。初音さん私に『ホクトの娘であることを利用すればいい』って言ったじゃないですか、」
「・・ああ。あれは。すみません。なんか言いすぎて、」
初音はバツが悪そうに食事を続けた。
「ううん。なんか。あたし・・利用できる賢さもなんもなかったなって。両親もあたしの性格わかってて。早くしっかりした人と一緒になった方がいいって思って結婚勧めたのかもしれない・・って。今になって思ったり。祐介さん・・あ、前の旦那さんね。まあ実際しっかりした人だったから。それからは。まあ色んなことあったけど。少なくともあたしを『ホクトの娘』としては見てなかったような感じだったし、トロフィーワイフっていうの?そういう疚しい気持ちもない人だった。世間知らずのあたしのことバカにもしなかったし色々教えてくれて。守られてたっていうのかな。まあ・・親みたいな感じ?」
運ばれてきた魚介のパスタをフォークに巻き付けた。
「自分が気づかないうちにいろいろ利用されてたのかなーとか。ホント。バカだなーって、」
落ち込む彼女に
「そんなこと。ないです。」
初音は静かに微笑んだ。
「・・あなたは自分の力も、魅力も。自分が一番わかってないですよ、」
「は・・」
思わず手を止めた。
北都の娘、という十字架を常に背負ってきた真緒は今になり父に言われた意味を思い知ります・・
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