メルには大切なものがある。

私以外の誰にも見せることのない

とても大切なものが...

それは、小指の爪ほどの大きさをした

乳白色の石をはめ込んだ 

がっちりとしたシルバーの指輪。


メルはこの指輪を1日中  

誰にも気付かれないやり方で 身に着けている。

指輪を長いチェーンに通して 首から下げている。

普段は衣服の下にすっかり隠されているから

その指輪の存在は メルと私だけの秘密。


寝室に入ってきて身支度を整えるメル

胸元には、指輪がキラキラ輝いている。

メルは全ての用事を済ませて ベットに腰掛けると

チェーンを首から外し 指輪を指にはめ直す。

でもその指輪は、メルの指には大きすぎて

チェーンを通したまま指にはめても

いつ抜け落ちるかもしれない。

その為メルは、いつも枕の下にしまってある

長くて丈夫な蔓を取り出し、チェーンの中にくぐらせる。

それからその長い蔓の両端を 

壁に寄せられたベットの真ん中の支柱に固く括りつける。

寝ている間にメルの指から 指輪が外れて無くなったり、 

あるいは外されたりしないように メルが考えた仕掛け。


その指輪をメルが 何故それ程大切に

また秘密にするのかには、

きっとそれなりの訳があるとは思うけれど

訳がなくたって、誰もが一目見れば

必ずその指輪を欲しがることは間違いない。


日の光に当たれば 満月のようにほのかに輝き

月の光を受ければ 七色に廻りを照らし出す。

見たものの心を必ず奪う 

そんな不思議な指輪なのだから...