多くの女性にとって(時には男にも)結婚とは依存した状態である。レオン・ザルツマンという精神科医によると、女性が依存的関係でバランスを保って生き て行くには色々な方法があるそうだ。一つは自分の夫が非常に優秀だと思いこみ、もう一つは自分の評価を下げる事である。「私などとても…」などと言い訳し て、眠っている野心や才能や興味が目を覚まさぬよう上手に抑えこむ。これは囚人、奴隷、少数民族らの持っている「否定の方式」と同じなのだそうだ。彼らが 侮蔑を甘んじて受け入れるのはそれと引き換えに現状での最大の安全と利益を保証して貰えるからだとの説である。

  「あたし、自立して生きていきたいの」と言いながら、夫が扶養手当を貰える限度額しか働かず、結局は夫に扶養されて自立とはほど遠い人妻がいた。彼女、自 立の意味を知ってたんだろうか?自立心とは自分の判断で自分の能力を頼りに自力でやり遂げた学習の結果として生れる、とジュディス・バードウィックが「女 性心理学」の中で言っている。

 私はNYで儲からない古着屋をやっていたが、何でも自分で決定し、自分で責任を持たざるを得ない状況になって始めて自立とは何かを実感した。一生扶養されていては得られなかった経験だったと思う。

  自力ではどうしようもない状況に置かれると動物は諦めはじめる。人間も同じで、これは「習得した無力感」と呼ばれる。挑戦的態度を出さず、人と対決せず、 文句を言わず、お利口にしていれば安泰。ブロードウェイのダンサーにインタビューした時、独身の彼女にこう私は聞いた。「家庭に収まって夫にミンクのコー トを買ってもらえるような女になりたいと考えた事はありますか?」彼女の答えは簡潔だった。

"Never!(一度もないわ!)"

 私も「誰が食わせてやってるんだ」なんてセリフ、金輪際男の口から聞きたくない。「放浪記」の林芙美子も言っている。「男に食わせてもらうほど惨めな事はない」と。

  実りある結婚生活の鍵は、矛盾するようだが基本的に一人でいる事に耐えうるかどうかという事ではないか。人に頼らず自分の足で立ち、自身の人生観や価値観 を持てるかどうか。多くの結婚が破綻するのは、この個体分離がないゆえであるとエライ先生方も言っている。結婚はもたれあいではない、協力のしあいなの だ。独身の私が言ってもあまり説得力がないが。