エリザベス女王の在位が英国史上最も長かったのに対して、チャールズ国王の皇太子歴も歴代最長。

 

はじめは、偉大な女王の後の国王でプレッシャーが大きいのではないかなどと心配していた人たちも、女王崩御の後のチャールズ国王の立ち居振る舞いや国民の心に響くお言葉に、国王になって数ヶ月後には「悪くない」という評判をよく聞くようになりました(「悪くない」はイギリス英語では褒め言葉です)。

 

チャールズ国王が誕生する際に英国の新聞では期待を込めて、歴史上初めての「緑の国王(Green King)」になるという記事が昨年の今頃に書かれていました。

「緑の国王(Green King)」とは、文字通り、地球環境を守り、豊かな生態系を子孫に引き継ぐ国王陛下、という期待の表れです。

 

実は英国王室は、1960年代後半から環境問題にとても熱心に取り組んできており、当時は、森林破壊や大西洋の汚染、魚の乱獲について訴えていました。そして皇太子時代に気候変動に対する取り組みをする財団をいくつも立ち上げてきました。その中には、熱帯雨林の保全を行う財団もあります。それには世界的なスターも賛同し、プロモーション映像を作るなど、若い人たちに関心を持ってもらうための活動を続けていました。あらゆる分野についてご存知で環境問題のエキスパートでもある国王。世界各地の環境活動家の若者もチャールズ国王には畏敬の念を抱いています。

 

エリザベス女王が各国首脳に参加を促したものの、残念ながら参加を果たせなかったCOP 26でのスピーチでは、目の前に座る世界のリーダーたちに地球温暖化に立ち向かう努力を加速するよう促し、「Time has quite literally run out」と警告したのですが、そこで終わらないのがチャールズ国王らしさ。世間がまだ環境問題に関心のなかった1970年ごろから深めてきた専門家も唸らせるほどの知識を背景に、具体策までお考えです。特に、民間企業や金融機関の資金をうまく地球温暖化対策に振り向ける策を熱心に立案し、数多くのスピーチもされています。その後の米国や欧州の取り組みを見ていると、国王の提案を盛り込んでいるなど、世界中を巻きこむ大きな影響力を持ち、多くの専門家やリーダーが、チャールズ国王に最高の敬意を持って期待しています。実際に、新しく大臣になった人たちや、政党の党首の方々が国王に挨拶に行っていましたが、その際の話題に、環境問題のことを話題に取り上げていた人もいました。

 

誰にもまして熱心で、しかも圧倒的に大きな影響を及ぼしたのはエリザベス女王でした。産業革命発祥の地とされるグラスゴーで昨年秋に開催された国連主催の地球温暖化会議COP26では、エリザベス女王が「環境問題に関して、世界のリーダーは口先ばかりで行動を起こしていない」と不満を漏らされたことが取り上げられ、これに呼応する形で、100ヶ国を超える大統領や首相、多くの企業や慈善団体の代表者などがグラスゴーに馳せ参じた姿は圧巻でした。

 

 

アメリカのバイデン大統領は、ジョン・ケリー地球温暖化担当大統領特使、EV化などを担当するピート・ブティジェッジ運輸長官、若手に絶大な人気を誇るアレクサンドリア・オカシオ=コルテス民主党議員などの多くの政界の実力者に加え、Amazonの創設者ジェフ・ベゾスさんが設立したベゾス・アース・ファンドのアンドリュー・ステア社長、ロックフェラー財団のラジーフ・シャー社長、俳優で環境活動でも有名なレオナルド・デュカプリオさんなどを引き連れて参加されていました。

ケリー大統領地球温暖化特使は、脱炭素に取り組む企業を束ねる新しい脱炭素同盟を発表して注目を浴びていました。ちなみにチャールズ国王(当時は皇太子)はCOP26の開催に先立ち、ジョン・ケリー米国気候変動特使をロンドンのクラレンスハウスにご招待されていました。

 

 

 

初めてお目にかかれたブティジェッジ運輸長官は、アメリカがどのように脱炭素と経済の発展を両立するのか力説されていました。彼は、先の大統領選挙でも善戦したことで有名になりました。ハーバード大学とオックスフォード大学の学士号を持ち、8カ国語を操る方。いろんな国の人たちとそれぞれ相手の言語でお話しされていて素敵だなと思いました。

 

 

米国の元副大統領アルゴア氏とも2年ぶりに再会することができました。視聴者を惹きつけて離さないプレゼンテーションは健在。特に今回印象に残ったのは、一般市民の心理状態への心配です。温暖化の危機が様々なニュースで取り上げられるようになり、関心が高まっているのですが、同時に、不安を煽る論調が多くなっているのも事実。地球温暖化には解決に向けた道筋があると様々な観点からご教授くださいました。

 

 

 

カナダのトルドー首相は、立ち居振る舞いも凛としていて素敵なリーダーだなと思いました。資源国カナダの脱炭素反対派や懐疑派を説得し、民意をまとめてCOP26にいらっしゃいましたので、秘訣をお伺いしたところ、いわゆる「Climate Change」と言うことを避け、「Climate Choice(選択肢)」と称して複数の選択肢を用意し、未来予想を提示して、判断を任せたそうです。それは大変な努力で、自慢することは何もないとのお言葉でしたが、若いトルドー首相のエネルギーと賢さに心を動かされました。

 

 

 

エリザベス女王の訴えに対して、南太平洋の国々やアマゾンの民族など、地球温暖化で被害を受けている国々や地域からも多くの首脳や代表がグラスゴーに集まりました。

水没の被害が既に甚大なツバルからは、お写真右側のカウセナ・アタノ首相が参加をされ、お話を伺う機会がありました。既に水没している地域の住民を他国に移住できるように手配するなど、考えられることは積極的に実行するので、何とか世界各国には協力して温暖化を抑えてほしい、との切実な願いをお話ししてくださいました。

 

 

 

ジャングルの乱開発によって生存の危機にさらされているアマゾンのジュマ・シュパイヤ酋長は、アマゾンの原住民族シュパイヤ・テュカマ村初の女性酋長です。独立国ではありませんが、各国首脳を前にしても怯まず、自らの生活と文化を守るべく、力強く、説得力を持って、大勢の方に訴えかけていました。真剣な眼差しは神々しいくらいなのですが、彼女の民族には脅迫が毎日のように届くそうで、環境を守るべく、文字通り命を懸けて戦っている姿に各国首脳からも共感の声が広がっていました。

 

 

COP27では、開催国で大活躍されていたエジプトラニア・アルマシャト国際協力大臣ともお話しすることができました。

 

 

 

 

さて、COPのことで話題がそれてしまいましたが、チャールズ国王は今後も、どのようなリーダーシップを発揮されるのか目が離せません。

 

こちらのお写真は、チャールズ国王夫妻の私邸の一つでもあるハイグローブ・ガーデンズです。

 

1980年にチャールズ国王が買い取ったこのお屋敷は、1700年代に建てられた母家と、広大なガーデンからなり、以来、国王夫妻が40年の年月を今の姿に造り上げました。最も印象的なのは、数々の創作物と自然の調和です。美しい形に見事に剪定された樹木の下に茂る草木。邸宅を取り囲むように再生された原始のお花畑。ウイリアム王子とハリー王子もお気に入りだったツリーハウスとそれに寄り添う大木。エリザベス女王のお母様もお好きだった陶器を集めたオブジェとそれを取り囲むシダの茂み。冬の寒さから植物を守る高い塀に囲まれたキッチン・ガーデンで栽培される太古の野菜や果物。見事な石細工の池の中心に置かれる噴水とミツバチが水を飲みやすいようにと生やされた苔を滴る水。今までに見たイングリッシュガーデンの中でも最高峰と言って間違いのない美しい邸宅とガーデンでした。そこには、便利な生活や技術を捨てて昔の生活に戻るような、いわゆる自然に回帰するのとは次元の違う、チャールズ国王の未来のビジョンを見た気がいたしました。

 

人類の積み上げてきた技術や文化、洗練された美意識をきちんと継承しつつ、同時に、私たちの生活を豊かにしてくれる植物や昆虫、微生物までもが生き生きと生活する自然に寄り添う豊かな生活。チャールズ国王の目指す世界が網羅されているように感じます。

 

ハイグローブガーデン内のお写真は下記のリンクからご覧いただけます。

https://artsandculture.google.com/story/hQXREOWqhVHoJw

 

 

 

(ハイグローブにて。背後に飾られている絵画はチャールズ国王が描いた作品)

 

 

みなさまにとって素敵な週末になりますように。