母方のじいさんがなかなかにボケてしまった。五分に一回の本人確認。

「あれ?〇〇?(妹の名前」

「いや、あたいはかほよ!」

「なーんだ!かほかぁ!全然分からなかったよ」

というやりとりをすること十数回。なーんてこったい!じいちゃんの中の私は18歳位で止まっている。そして、今となってはもう、じいちゃんは新しいことを覚えていられない。今日、一緒にご飯を食べても、明日には忘れてしまう。「いや〜嬉しいなぁ」って言った感情も、明日には覚えていない。


でも、昔の事は覚えている。私が小さいときの思い出を目を細めて話しては、大きくなったなぁと言うもんだから、「もう27歳よ」って、教えてあげるの。


ばあちゃんが入院して、じいちゃんは、施設に入ることになった。施設に入る前に、晩御飯を一緒に食べようということで、昨日会いに行った。久々に顔を合わせたじいちゃんは、少し痩せたようだった。


「ばあちゃんが入院してから、あんまり食欲がなくなっちゃったみたいで」叔母さんが、しょんぼりとした顔で告げた。
じいちゃんによそったご飯も、お肉も、飲み物も「全部かほにあげる」と、手をつけないから、心配になった。代わりにアルコールを欲しがるので、「ばあちゃんが退院したら、お祝いで飲もう」と、叶わない約束をした。


今日、ばあちゃんが入院先で亡くなった。私の結婚式をとても楽しみにしてくれていたのにな…。あと、3ヶ月は持つって言ってたのに…。神様の馬鹿!


でも、一番馬鹿なのは私だ。忙しさにかまけて、お見舞いに行けなかった。十分でいいから、顔を合わせておけばよかった。結婚式絶対来てねと、ガンに負けるなと声をかければよかった。たらればの話をしてもどうしようもないが、今となっては、後悔しかない。


ばあちゃんが居なくなったという実感が全く湧かず、放心気味で居たところに妹から連絡が来た。先週の日曜にお見舞いに行った時のエピソードを話してくれた。


その日はじいちゃんも一緒に、お見舞いに行ったらしいのだが、お互いがお互いの心配ばかりしていたそうだ。

「じいちゃん、ちゃんとご飯食べてるの?」

「大丈夫だよ。そんなことより、何か欲しいものはないか?売店で買ってくるよ」

「大丈夫よ」

自分が辛いはずなのに、相手の心配ばかりしていたと。ばあちゃんが不安になるから泣いたらいけないと分かっていても、堪えきれず泣いてしまったと言う話を聞いて、2人で泣いた。


夫と私があと50年後、そうであったらいいなと思った。