・・・今までの話・・・・

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この空の向こうがわ ☆一年生 春☆ no.10



6月も半ばを過ぎたころ・・・・

いつの間にか梅雨入りしていて、最近はもっぱら雨の日が続いていた。


でも、今日はどんよりした雲の中、何とか雨が降り出さないからか

久しぶりに運動部のみんながグラウンドで駆け回っている放課後・・・・・


私は、美術室の窓からそっと、外のグラウンドを覗いていた。

すると・・・・・



「・・・外に、何か珍しいものでもあったか??」



声をかけられ振り向くと、顧問の橘先生が微笑んでいた。



「・・・・いえ、別に・・・・・・」



私が言いよどんでいると、先生は私の隣へ行き

同じように窓の外を覗いてから、こっちに振り返った。



「・・・・・ココからの景色は、昔と変わらないな・・・・」



「・・・・・・・えっ??」



「(ボソッ)・・・愛菜も・・・・同じように、よくこの窓から外を眺めていたよ・・・・」



懐かしそうに、でもどこか寂しげに言う先生の顔を見てしまって

私は何も言えないでいた。



「・・・・・・・連条も・・・・・彼を見てるの??」



「っ!!!!!」



先生の見つめる視線の先には、

この窓から見える、男子サッカー部の隣で練習をしている

女子サッカー部の顧問である、章吾さんが走り回っていた。



「・・・・・見ているだけなら・・・・・、構わないから・・・・・・

でも・・・・・・・・・・」



「・・・・・・・・・・・・で・・・も・・・・・・・・・??」



「・・・・・・・アイツは、教師なんだから・・・・・・・

深入りする前に、やめておいたほうがいい・・・・・・・・

もっとも、昔から変わらない、とか言うつもりなら

俺はこれ以上何も言えなくなるけど・・・・・」



「えっ???せ・・・・・先生?????」



最後の私の声が、思いのほか大きかったようで

周りにいたほかの美術部員みんなに見られてしまった。


みんなの視線を感じ、私はいたたまれなくて小さくなって



「・・・・・ご・・・・ごめんなさい・・・・・・」



小さく謝って、そそくさとその場から逃げ出した。


廊下に出て、そのまま女子トイレに逃げ込むと

小さくふぅ~と息を吐き出した。


一人きりになって、今の橘先生の言葉を思い出す。


”昔と変わらない”って・・・・・・・・・

もしかして、橘先生は、

私が昔、章吾さんのことが好きだったことを、知っているの??


どうして??


もしかしたら・・・・・・・・・・・


お姉ちゃんが日記に書いてあった

”あの人”って・・・・・・・・・・

橘先生???






その晩、私は家に帰って制服すら着替えないで

私の鍵のかかった引き出しから

お姉ちゃんの日記を取り出した。


ペラペラとページをめくり、ある日付のところで

私は手を止め、食い入るように読んだ。




●○●○●



―愛菜の日記―



○月×日



先日、章吾から距離を置こうと言われた。

どうして急にそう言い出したのか、私にはまったくわからない。


一人で考えていても、解決方法なんて見つからないから

私はとうとう、あの人に相談してしまった。


・・・・・・卑怯だってことは、わかってる。

あの人の好意を、利用していることも。

でも・・・・・・・・・

あの人は優しいから、私の言葉を、全部聞いてくれた。


だから・・・・・・

私は、もう一度章吾が私のところに戻ってきてくれるのを

待ってみることにした。


きっと、すぐ。

章吾は、何でもない顔をして戻ってきてくれるから・・・・・


やっぱり

章吾が一番、大好きだから・・・・・



●○●○●



この中にある、”ある人”っていうのが

橘先生だとしたら・・・・・


私のことも、何か聞いているのかもしれない・・・・・


そもそのこの日、お姉ちゃんはどうやって相談をしたのかは

かかれてないからわからないけど・・・・・・・


きっと、こういったに違いない。


私は、お姉ちゃんの日記のページを少しめくり

ある日付のところで目が留まった。



●○●○●



―愛菜の日記―



○月△日



今日、初めて章吾が私の家に来てくれた。

テスト前に勉強をするつもりだったけど・・・・


妹の萌香が思いのほか早く帰ってきてしまって

勉強するしか他ならなかった。


・・・・・もうちょっと、二人きりの時間を過ごしたかったのに・・・・・


それよりも、萌香に会った後、ちょっとだけ

章吾の態度がいつもと違ったのは・・・・・

気のせいかな??


それに・・・・萌香も、

章吾のこと”かっこいい”なんて言ってたけど・・・・・

まぁ、”さすがお姉ちゃんの彼氏だけあるわね”って言うから

うれしくなってお菓子あげちゃったんだけど・・・・

惚れないでしょね?!


まぁ、萌香はまだ小5だし・・・・

きっと範疇外でしょ。




○月□日



今日、萌香のピアノの練習が聞こえてきた。

最近、音色が変わった。

本人に聞いてみても、ぜんぜん自覚がないみたい。


それよりも、”またいつ章吾さんがくるか”って聞いてきた。

今はテスト週間だけど、テストが終わったら

章吾は部活で忙しくって、私の家にはやってこないわよ。


なんとなくだけど・・・・・

章吾を萌香に会わせたくない。

そんな気がした。



○月××日



明日でテストが最後。

今日、もう一度章吾を家に連れてきて

一緒に勉強をしていたら・・・・


章吾が休憩中に、萌香のピアノを聴きに行っていた。

萌香のピアノを傍らに立って聞き入っている

章吾を見て・・・・・

何もいえなくなってしまった。


まるで、そこが本当の章吾の場所のような気がして・・・・

章吾の彼女は、私なのに・・・・・・・


でも、そういえば・・・・・

私、章吾に”好き”って・・・・言って貰ったこと、ほとんどない。

それって・・・・・彼女として、どうなの???


・・・・・・・・不安だよ、章吾・・・・・・・



●○●○●




お姉ちゃんの日記を読んでいると、胸がキリキリ痛んでくる。


どれだけ、お姉ちゃんが章吾さんのことを想っていたのか

伝わってくるから・・・・・・



私が、お姉ちゃんを不安にさせた。


その事実は本当で、そのすべてが原因ではないのだけれど

お姉ちゃんを苦しめたことは事実だ。



お姉ちゃんは、最後に遺書を残していた。


それは、”両親”宛て、”章吾さん”宛て、そして・・・・・・”私”宛て。


私宛に書かれていた遺書。

そこには、たった一言。



”私は、あなたを一生、許さない―――――”



こう、書かれていた。


もう二度と、読み返したくない文。


その当時まだ小学5年生だった私には

とても重くて、怖い言葉だった・・・・・・


そのとき私は、お姉ちゃんが自殺したこと

お姉ちゃんが私を恨んでいたことから、目を背けてしまった。


事実を受け入れることが、つらかった。




そして、そのことが更なる不幸への始まりだったとは

その当時の私は、気づかなかった。


そして、最悪の事態は、去年。

中学3年生のときに、起きた――――



父の突然の、死去。



それは、お姉ちゃんの自殺による自分自身の心労と、

そのことに心を痛めたお母さんが

精神病院に入り、その通院による疲労

そして・・・・・・・・・

心を閉ざしてしまった私に向き合えなかった苛立ち

そのすべてが、重なってしまったんだ・・・・・・


事実を受け止められない私は、

ただ黙々と、お父さんの葬儀に出席し

親戚の連条家で預かってもらうことが決まった。


家で、父の書斎の整理をしているときに

この・・・・・・・

お姉ちゃんの日記を見つけて、

私は初めて、お姉ちゃんの本当の気持ちを知った。


お姉ちゃんが、章吾さんのことで悩んでいたこと。

苦しんでいたこと。

そして、妊娠をしていることがわかったこと。


それが・・・・・・・・・・

一番の悩みだったようだ。


相手が、章吾さんじゃないから

余計に、誰にもいえなかったみたい。


好きな人じゃない人の子どもを妊娠してしまったお姉ちゃんは

悩み苦しんだ上で・・・・・・

屋上から、飛び降りた。


私には、お姉ちゃんの気持ちが理解できなかった。


でも・・・・・・・・・・・・・


理解できなかったから、知りたかった。


お姉ちゃんの、気持ち。



私は、お姉ちゃんの気持ちを、理解できる日が来るのだろうか・・・・??


もう一度、誰かを好きになることが、出来るのだろうか――――???




つづく。






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今回は、過去の話をちょっと交えてみました。


萌香ちゃんの抱えるものが、だいぶ紹介できたのではないのでしょうか??


それでは、次回もお楽しみに♪