君の風景は僕の風景 Landscape.39
「随分とお酒、お強いんですね」
「あ、すみません、仕事の話なんて
………………嘘ついて」
呼び出された場所がいつも打ち合わせで使うカフェや個室のある料亭、ホテルの会議室ではなかったから、なんとなくだけどそんな気はしてた。
今日会社に辞表を出したし、相手とも話したよ。
でも、もう少し、話さないと。
そんなあいつからのLINEがきた後、割と直近の呼び出し、なにより
それじゃあ、いつもの店で。うん、その、………………ごめんね、翔ちゃん。
あの時聞いたその名前が自分が予想した全てをじわじわと正解へと導いていく。
翔ちゃん
翔
櫻井翔
何より決定的なのは、帰国してからマネージャーより聞いて知らされたクライアントの会社名
それはいい意味でも悪い意味でも依頼主で仕事を選ばない主義が裏目に出た瞬間。
あいつの会社
その部署は違えど、間違いなくあいつが勤めていた会社
「大野さんって」
「あ、はい」
「恋人とか、いたりします?」
いきなり確信をつかれた気分になる。
ただそれは自分なりの正解であって、もしかしたら本当にただの偶然だって数%ある訳で、なにより結局のところ本人に聞かないとしっかりとした正解など分かるわけもなく。
ただ、俺は、勘には、少しだけ
………………自信があるだけ。
「あ、ま、まあ」
「そうですよね、大野さんぐらいの人でしたら居ますよね」
見た目でわかる濃いハイボールはピッチをあげて隣に座る男の喉を通り抜け、俺はそんな様子を見ながらチビチビと。
容姿端麗
知性で、そして仕事ができ
どこから見ても
少なからず俺視点からは、非と言うものを探すのが難しそうな男
そんな男が俺の正解が正しければ、あいつの言葉でこれ程にまで少ないだろう弱さを他人に見せる現状を作り、それは同時に自分がきっとあいつにしてしまったであろう状況だと安易に予想ができた。
「大野さんに言うのも変な話ですけど、ついさっき、その、お恥ずかしい話、別れを告げられまして」
「そう、 ………………なんですか」
そう言う他、言葉がなく、その後を言葉を濁すのが精一杯だった俺には
昔の恋人って
そんなに
忘れられないもの、
なんですかね。
その呟きにも似た言葉は、あまりにも身に覚えがありすぎて、そして、重すぎた。