SSRI、とくにパキシルの服用時に攻撃性がでるという報告があります。私の臨床経験でも、SSRI服用を始めてから、理由なくいらついたり、怒りっぽくなったというケースは結構ありました。


これについて、日本うつ病学会が「抗うつ薬の適切な使い方について」という公式コメントを発表しています。長くなりますが、以下に引用しておきます。



新規抗うつ薬の使用によって攻撃性や衝動性や自傷行為が増す例があることから、2009年5月に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やセロトニン/ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)といった新規抗うつ薬の使用上の注意に関する改訂が行われたことはご存知のことと思います。
日本うつ病学会は、この問題を検討するために「抗うつ薬の適正使用に関する委員会」を立ち上げ、詳細な検討を加え、今後正式な「適正使用のための提言」を作成すべく準備を進めておりますが、多少時間を要することから、現段階で分かる情報をもとに学会としての見解を皆様にお伝えしようと思います。
まず、これらの攻撃性や衝動性、自傷行為の出現の多くはアクティベーション・シンドローム(賦活症候群)といわれる症状の一部である可能性が高いと思われます。アクティベーション・シンドロームとは、抗うつ薬の服用開始(多くは2週間以内)や増量に伴って、不安、焦燥(イライラ、ソワソワ)、パニック発作、不眠、易刺激性(ちょっとしたことで怒りっぽくなったり敏感に反応すること)、敵意、衝動性、アカシジア(身体がソワソワ・ムズムズしてじっとしていられない状態)、軽躁・躁状態(普段より動き過ぎたり、しゃべり過ぎる、怒りっぽくなる)といった症状が出現することがあり、これらの症状の集まりのことを表す言葉です。
新規抗うつ薬によりこれらの症状が出現したと言われていますが、アクティベーション・シンドロームは新規抗うつ薬だけでなく、従来から使用されているその他の抗うつ薬でも起こりうることが報告されています。東京女子医科大学病院の原田医師らの外来カルテ調査によると、神経精神科で新たに抗うつ薬が処方された方のうち、4.3%の方にこの状態の出現が疑われた(これらの症状のひとつ、またはそれ以上が出現した)と報告されています。ただし、この状態は一過性のものであり、ご本人やご家族、周囲の方がこの症状を疑った際にはすぐに担当医に相談されることで対応が可能です。一般的な対応としては、担当医と相談の上、抗うつ薬を初めて服用された方は中止すること、増量された方はその前の用量に戻すことが勧められます。また、必要であれば、抗不安薬の頓服、気分安定薬や抗精神病薬を追加投与することで改善することが一般的です。
ただし、アクティベーション・シンドロームでみられる症状は病気そのものの症状と類似していることが多いのも事実です。うつ病及び、うつ状態ではイライラ感、焦燥感、衝動性の亢進や死にたい気持ちといった症状がみられることがありますし、双極性障害(躁うつ病)の躁状態では不眠、易刺激性、イライラ、といった症状がみられることがしばしばあります。また、治療中にうつ状態から躁状態に変化すると、躁状態の症状として、不眠、イライラ、刺激により興奮しやすくなる(易刺激性)、あるいは衝動性の亢進などが現れます。
うつ病及び、うつ状態の治療には薬物療法の他にも心理療法などさまざまな治療方法がありますが、抗うつ薬を中心とした薬物療法が最も早く効果を発現させ、確実に効果を表すとされています。
ここで、ごく簡単に抗うつ薬の歴史を振り返っておきましょう。抗うつ薬が登場したのは1950 年代ですが、それ以前は治療法と呼べるものは「持続睡眠療法」と「電気ショック療法」しかありませんでした。抗うつ薬の登場がうつ病の治療を大きく進歩させたことは明らかです。しかし、初期の抗うつ薬は副作用が多く、安全性にも問題があり、服用しづらいものでした。この半世紀の間に、できるだけ副作用が少なく安全性の高い薬(最近で言えばSSRI,SNRI をはじめとする新規抗うつ薬)が開発されてきて、今日に至っています。しかし、まだまったく副作用のない薬を得るには至っていません。もともと薬にはプラス面(ベネフィット=効果)とマイナス面(リスク=副作用)があり、これらを秤にかけてプラス面がマイナス面を上回るときに薬として使うわけです。新規抗うつ薬についても同じことが言えますので、細心の注意を払いながら、その効果を最大限得られるように使用することが大切です。
このたびの改訂は、新規抗うつ薬の使用とこれらの症状の因果関係が否定できない事例が存在したという理由で厚生労働省から製薬企業への指示を受けて行われました。皆様方も今回の報道に過剰に不安になることなく、治療にあたっての主治医からの説明をお聞きになった上で十分に意見を交換し、必要に応じて対策を講じていただくことにより、こうした問題は軽減できるものと考えられますので、ご理解のほどよろしくお願いいたします。



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