鳥取県の山また山の山の奥、古くから杉の産地として栄えてきた智頭町のさらに山奥。氷ノ山後山那岐山国定公園に指定されている芦津渓谷を流れる千代川水系北股川を遡上、源流近くで突如として出現する壁。
三滝ダム。
壁と梁が格子状に組まれた特異な姿。
水圧を受ける遮水壁(鉄筋コンクリート板)をバットレス(扶壁)で支える構造。
1937(昭和12)年に完成した堤高23.8m×堤頂長82.5mの発電用ダム。
日本で最後に造られたアンバーセン式バットレス構造のダム。
使用するコンクリートが少量で工期も短期間で済み、重力ダムに適さない地盤でも施工が可能なことに加え、中空構造のため点検・補修が容易なことから建設・維持が経済的とされた。
日本では1923年から1937年までの14年間に8基のバットレス構造のダムが造られた。
1928年に同形式の小諸ダムが決壊したことや世界恐慌による電力需要の激減などにより一時建設が見合された。
三滝ダムは1935(昭和10)年12月1日着工、1937(昭和12)年7月31日竣工。後期は20カ月だったが、12月から4月までは降雪のため工事ができなかったため、基礎掘削3か月、堤体工事9か月、実質12か月の短期間で完成させている。
凍害による耐久性の低下や型枠施工の人件費が高くつくため、結果として最後のバットレス式ダムとなった。
左右に余水吐を装備、その重量も利用して本体を固定している。
標高729mに位置し冬季の降雪は数mにも上り、寒さは厳しく湖面も凍る。
竣工から86年が経過しているが、現在は中国電力によって管理・運用されている。昭和40年代には遮水壁と扶壁の間にブロック積みの保温壁を接ししてコンクリートの凍害劣化防止対策を実施。また昭和50年代には扶壁と梁を補強する大規模な工事を実施している。
現在国内に現存するバットレス構造のダムは6基で、その希少性から三滝ダムは2002年に平成14年度土木学会選奨土木遺産に認定された。
芦津発電所用の取水口。
ダム周辺は建設に使用した沖ノ山森林鉄道の廃線跡を再利用した遊歩道が整備されている。
滑落と動物に注意。
天端は中国遊歩道の一部で通行が可能。
天端からの眺望は絶景。
北股川へは右岸遊歩道からから降りることができるが急傾斜。ダムへ至る道は狭隘で状態も良くはない。5年ほど前に訪れた際の記録なので現在の様子は不詳。近年の豪雨などにより車道および遊歩道が荒れている可能性があるので要注意。
◆諸元
名称:三滝ダム
河川名:千代川水系北股川
所在地:鳥取県八頭郡智頭町芦津
形式:アンバーセン式バットレスダム
ゲート:無(自然越流式)
堤高:23.8m
堤頂長:82.5m
総貯水容量:275,800㎥
設計:山陽水力電気(現中国電力)
施工:清水建設
発注者:山陽水力電気(現中国電力)
管理者:中国電力株式会社
着工:1935(昭和10)年12月1日
竣工:1937(昭和12)年7月31日
●アクセス
鉄道・バス:JR西日本因美線智頭駅下車徒歩235分
自動車:鳥取自動車道智頭ICより国道373号・鳥取県道6号津山智頭八東線経由20km50分
◆参考サイト