旧志戸坂隧道(きゅう しとさかずいどう)は、廃道となった旧国道373号にある元道路トンネルで、岡山県英田郡西粟倉村坂根 - 鳥取県八頭郡智頭町駒帰を結んでいた。
鳥取城下から河原・用瀬・智頭を通って志度坂峠に至る智頭往来は、古くから因幡と畿内を結び、国司の赴任時や鳥取藩主の参勤交代などに利用された重要道で、上方往来とも呼ばれていた。現在では国道53号、同373号がそのルートをほぼ踏襲している。
志戸坂峠は「鹿跡御坂(ししとみざか)」とも「駒帰坂(こまかえりざか)」ともいわれ、平安時代には峠で「境迎(さかむかい)」の儀式を行い、あるいは国境で入国者を見張っていたことから「人見坂(ひとみざか)」とも呼ばれていた。
江戸時代には現在よりさらに高い峠を越えていたが、1885(明治18)年から荷車や馬車が通行できるよう掘り下げたため、現在の峠道の頂上は標高581mになっている。
1934(昭和9)年、志戸坂峠の下を貫通する志戸坂トンネルが総工費32万円で完成。当時、志戸坂トンネルは全国2位の長さを誇っていた。
延長565mのトンネルはカーブが多く急坂の連続で、その上冬季は積雪のため通行も難しく、大型化する車両にとっては苦労の道だった。
やがて高速道路の建設が進み、県境付近の交通量も中国自動車道の開通で飛躍的な伸長。こうした現状をふまえて、標高を下げた新しいトン ネル計画が浮上し、ついに1981(昭和56)年、全長1630m、幅員9mの新志戸坂 トンネルが完成した。
現在の志戸坂トンネルが新しく開通したのに伴い、旧志戸坂トンネルは1981年(昭和56年)に閉鎖。
閉鎖後は地元町村が管理し、智頭町が板井志戸坂トンネル原ごうこ(漬物)の生産場として活用されている。
岡山県側では白装束の女性の霊や老婆の霊、事故死した家族の霊が出没したり、黒い影が襲ってくるなどの噂が流布されているが、鳥取県側ではそのような話は聞かない。
訪れたのは3年前。
うら寂しい峠道を上っていると右手に謎のオブジェ。
陶芸窯。
この辺りまで廃道とは思えないきれいに舗装された道路が続いたが、ここから様相が一変。
路上を覆う無数の大石小石。
路面を横切る水の流れ。
こんなに荒れている理由とは?
2018(平成30)年6月28日から7月8日にかけて、西日本を中心に北海道や中部地方を含む全国的に広い範囲で発生した、台風7号および梅雨前線等の影響による「平成30年西日本豪雨」の爪痕。
トンネルに近づくと左に幻の滝出現。
賽の河原の様相。
ここ志戸坂峠は、東西、南北方向につながる極めて重要な道として「人と人」そして「物や文化」をつなげ、伝えてきた文化遺産だともいえる。
尊し。
あれから3年あまりを経て、先日の台風7号の影響による豪雨の影響が心配される。
◆旧志戸坂隧道 諸元
所在地:鳥取県八頭郡智頭町大字駒帰
全長:565.0 m
幅:5.4 m
高さ:4.0 m
貫通年:-
開通年:1935年(昭和10年)
閉鎖年:1981年(昭和56年)
●アクセス
鉄道・バス:智頭急行智頭線山郷駅下車約5km徒歩70分
自動車:鳥取自動車道(中国横断自動車道)・志度坂道路駒帰交差点より中原/駒帰方面へ約7分