東洋医学には「難経(なんぎょう)」という書物があり、その中には解剖学的な内臓の形、重さ、長さ等の詳細な記述があります。

東洋医学における五臓六腑という名称には解剖学的な意味合いも含むのですが、体の中から腎臓を取り出してこれが東洋医学の「腎」ですといってしまうと、東洋医学の「腎」の機能を説明する上で少し無理があるのです。

なぜなら、解剖学的な腎臓には、生殖に関わる機能や、骨格や筋肉の成長発育等を促進したり、聴力を正常に保ったりするための直接的な機能はないはずだからです。

つまり、東洋医学の五臓六腑というのは、体の特定の部分(パーツ)、物体をさしているのではなく、あくまで複数の身体の働きに対する総称であり、腎臓の機能は東洋医学の「腎」に包含されるという関係にもなります。

ここまで、少し堅苦しい解説になりましたので、五臓六腑についての解説をもう少しわかりやすくしてみたいと思います。

実は、五臓六腑というのは会社組織のようなものなのですね。

まずは、身体を会社に例えてみてください。

会社という組織が機能するためには、大勢の社員さんが必要ですね。人員が不足しても過剰でも困ります。適切な人数の社員さんがいてくれることによって会社としての運営が成り立つのです。

この大勢の社員さんが、東洋医学でいうところの「気」に例えられます。

そして、その社員さん達はそれぞれの部署で特定の業務に従事します。物流、人事、総務、企画等ですね。

同じ社員でありながら、どの部署に配属されるかによってまったく違う業務を担当します。

東洋医学における五臓六腑とは、この部署毎につけられる名称のようなものなのです。

例えば、物流というのは、物流部のあるフロアや部屋のことだけではなく、そこで働く社員さん達や、物流に関わる様々な業務そのものをまとめて呼称しているものです。

ゆえに、会社の中の物流を目の前に出して見せてくださいといわれても困ります。

西洋医学における臓器であれば、目の前に持ってきて見せることも可能でしょうが、東洋医学における五臓六腑は目の前に持ってきて見せることができないというのはこういうことなのです。

物流の例えと同じように、東洋医学における五臓六腑は、実質的な臓器につけられた名称ではなく、身体のいろいろな働きの総称なのですね。

ここでまとめてみると、会社という身体の中では社員さんという気が大勢働いています。
その社員さんという気は、企画や総務、人事といわれる部署、すなわち肝や腎、脾といわれる五臓六腑に配属されてそれらの仕事に従事することで、会社という身体を運営しているということですね。
                       つづく