病の「性質」「趨勢」「位置」を把握した上で、より細かい原因やアプローチの方法を絞り込み、治療のための戦略及び戦術が決定されれば、いよいよ病気治しの戦いを挑んでいくことになります。

軍師であれば、作戦計画を企画立案し、それが採用されればそこで仕事は大方終わりです。
後は戦果の報告を待つだけです。作戦の実行は将軍がやってくれるからですね。

中国の三国志の時代で言えば、天才の諸葛孔明が作戦をたてて、剛勇の関羽や張飛が実行するという具合でしょうか。

このように、実際の戦では、軍師と将軍という役割分担があるものなのです。

ところが鍼灸師は、診断してからが病気との本当の戦いの始まりなのですね。
作戦のオーダーを他の誰かに出してやってもらうというわけでもないのです。

つまり、軍師が立てた作戦を実行するという、将軍の仕事も自らこなさなくてはならないのです。
つい先ほどまで軍師の仕事をしていたと思ったら、そのまま鎧を着て剣を持って軍隊を率いていって最前線で指揮をとるようなものです。

これはなかなかに大変だと思います。

実際には、脈や舌やツボの変化を診ながら、鍼で気を集めたり毒素を散らしたりして作戦を実行するのですね。

そして、軍師として立てた戦略と戦術に誤りがなく、将軍として確実にその作戦を実行できれば、病気は改善に向かいます。

もし、戦略と戦術に誤りや欠陥があれば、病気はなかなか改善しませんし、戦略と戦術に大きな問題がなくても、それをうまく実行できなければ、やはり病気は改善しません。

その時は、軍師として考え直したり、将軍として再度戦いを挑んだりしていきます。

そのように、戦果つまり治療結果をフィードバックして、よりよい作戦や戦い方というものを練り直していくということですね。

最後にまとめてみると、鍼灸師は病気を治療するに当たり、まず病の「性質」「趨勢」「位置」を把握し、その病気がどのようなものかを大きく捉まえることで、治療の大きな方針つまり戦略を決定します。

次に、さらに原因を細かく絞り込み、具体的にどのツボにどんなアプローチをしていくのかという、治療における戦術を決定します。

治療の戦略と戦術を決定する作業を、東洋医学では「弁証論治(べんしょうろんち)」といい、弁証論治によって戦略と戦術が決定すれば、今度は軍師が自ら将軍になって実際に作戦を実行していきます。

そして、戦果を挙げることができればそのままの方針を維持し、戦果がいまいちであればまた作戦を練り直さなければならないということですね。

今回は、少し変わった(マニアックな)視点から東洋医学における診察診断について解説してみましたが、なんとなくでも東洋医学の治療の手順がおわかりになりましたでしょうか。
たまにはこのような視点で東洋医学を見てみるのもおもしろいかと思います。

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