前回は気の運動形式、すなわち「昇降出入」について簡単に解説しましたが、気の流れは人間の身体の中だけにあるのではありません。実は、自然界にもダイナミックな気の「昇降出入」があるのです。

 

四季の中でも花粉症のおこる春は、大地の中で蓄えられていた自然の気が地中からどんどん上へ昇っていく時期にあたります。

草木が伸びて芽をつけ花を咲かせるのも春ですし、子供の身長が伸びる発育の時期も春です。

 

つまり、春は下から上に向かう気の流れが特に強くなる時期で、誰であっても気を上へ昇らせる働きが過剰になってしまいます。

五臓六腑において、気を昇らせることで身体を適度な緊張状態にもっていき、全身の生理機能を活性化させる働きは「肝臓」が担います。

 

「肝臓」といっても解剖学でいうレバーのことではなく、東洋医学では、全身の気を循環させる働き、免疫や自律神経の働き、解毒の働き等、いくつかの働きをまとめてひとつの機能単位として「肝臓」と呼びます。

また、肝臓は心理状態、精神作用に深く関わり、心理的ストレスが重なっていくと、気の流れが乱れやすい臓でもあります。

 

そのような肝臓の働きが正常であれば、気が適度に昇って上記の生理機能が正常に働きます。

ところが現代では、この「肝臓」の働きに不調和をおこしている方が数多くいらっしゃいます。「肝臓」が過剰に働くと、過剰に気が昇ったり流れが鬱滞したりしてしまいます。

 

そのように「肝臓」の働きに関わる気の流れが悪くなった状態を「肝鬱気滞(かんうつきたい)」と言い、さらに過剰に気が上に昇りすぎる状態を「肝気上逆(かんきじょうぎゃく)」と言います。これらの病態は様々な病気の原因として、突出してよく出てくる病名でもあります。

 

もし、普段から「肝臓」の働きが過剰で、気の流れが鬱滞したり、気が上へ過剰に昇ったりしている人がいれば、その人は春になると、自然の下から上へ向かうダイナミックな気の流れのあおりを受けて、ただでさえ崩れがちである気の昇降バランスをさらに崩してしまうことになります。

 

「昇」があまりにも強くなり過ぎて、気が昇ったままうまく全身に巡らずに降りてこない感じですね。

 

そうなると、特に顔面部や上半身に気が滞り、気の鬱滞や軋轢が余分な熱を生じさせることになります。

そのような余分な熱(熱邪)がこもると、正常な生理機能が阻害され、花粉等の異物に対して過剰に反応してしまうベースができあがります(「肝臓」の働きが失調し免疫が異常なアクションをおこす)。

さらに、花粉がなくても熱邪がそのまま肝臓に関係が深い目に炎症をおこしたり、鼻づまりをおこしたりする原因になります。

 

また、気の昇降バランスが崩れると、身体の中に停滞した余分な水分が、通常の排出経路(大小便、発汗)を経ることができず、昇り過ぎた気といっしょに身体上部にあがっていき、鼻水として顔面部から排出されることもあります。(肝気上逆の場合の鼻水)

 

このように、春の花粉症は、大自然の気の影響により、普段以上に気の昇降バランスが崩れ、その結果生じた気の鬱滞(気滞)や余分な熱(熱邪)等の邪気が、正常な気の働きを阻害することが大きな原因のひとつになっているのです。

                                  つづく

 

 


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