真司郎side
7月28日 練習試合当日
朝、いつもより早めに起きると、キッチンから音が聞こえる。
たぶん実彩子や。
その薫りにつられるようにリビングに行くとやっぱり料理してるのは実彩子だった。
「…………あっ真司郎おはよ。」
「おはよ。早いな、実彩子。」
「そりゃあ大切な試合の日ですから私もチカラ入れないとね。」
「うわー、卵焼き。もちろん…………?」
「甘いヤツ。真司郎の好みなんて分かってるよ〜。あ、でもこっちのやつは甘くないやつだから。」
「なんでどっちも作ったん?」
「昨日聞いたら、にっしーと千晃と秀太は甘くない派なんだって。だから。」
「へぇー。そうなんや。絶対甘い方が上手いのに。」
「ちゃんとこれも作ったよ。ほら。」
「おー。さすが実彩子。上手い。」
実彩子が掲げたのはタコさんウインナー。
「その歳でまだタコさんウインナー好きって言われるとまだまだ子供だなーって思うよ。」
「別に大人でも好きな人はおるやろ?」
「ほぼ聞いたことないけどね??」
「ええねん、もう。」
「ふふっ。あ、ねぇ朝ごはん、食べるでしょ?お弁当用にご飯炊いたから食べれるけど、ご飯とパンどっちがいい?」
「ご飯!!」
「了解!!」
大切な試合の前はやっぱりご飯がいい。
腹持ちもええしな。
「え?卵焼き食べていいん?」
食卓に着くとご飯やお味噌汁と一緒に卵焼きが並んでた。
「卵焼きはご褒美でもあるけど、応援でもあるから。どうぞ。」
いつもなら作るのがめんどくさいから朝ごはんでは食べないでって言われるのに…………。
「実彩子。」
「うん?」
「ありがと。」
「……頑張ってね。応援してるから。」
「おん!」
きっとここまで練習してきたこと、みんな知らないふりしてくれてるけど、きっと知ってるんやと思う。
応援してくれてる人たちのためにも自分のためにも全力を出さないと行けへん。
宇野side
「あ、千晃!!ん?直也くん??」
千晃からちょっと遅れるから先行ってて欲しいって言われて、グラウンドに日高くん、にっしーの3人で到着してから5分後、千晃と秀太は直也くんも連れて3人で来た。
千「ごめん、宇野ちゃん。直也くんが全然出てこなくて。」
直「いや、昨日先輩とちょっと飲んじゃって、本当にごめん!!」
直也くんは生徒、先生関係なく、自分が悪い時はちゃんと謝ってくれる。
宇「いいよ、間に合ったんだし。ねぇ?」
日「でも、ちゃんと真司郎には報告しないとな。笑」
直「あとあとめんどくさそーだな、それ。」
西「うわーそれ面白そ〜」
直「西島に言われるとムカつく〜!!」
秀「いつもは逆だもんな〜。西島が遅刻して直也くんが怒るのに。」
宇「下克上??」
日「それ意味ちがくない??」
宇「そっか。笑」
6人でスタンドに並ぶ。
千「お弁当はいつも通り?」
宇「うん。うちの親が終わる頃を見計らって届けてくれるって。今日、結構暑いし傷んだらイヤだしね。」
せっかく作ったものが台無しになるほど悲しいことは無い。
美味しく食べて欲しい。
秀「ちょっと遅くねぇか?」
千「うん……そうだね。」
西「しかも相手チームの応援全然いなくない?」
開始予定時刻5分前になっても誰もグラウンドに姿を見せない。
それに相手チームの関係者らしき人たちも見当たらなかった。
宇「何かあったのかな……。」
強豪校との試合だけあってウチの観客もいつもより多い。
みんな異変を感じてるみたいでざわざわしてる。
心配してグラウンドを見つめる。
でも、そこには開始予定時刻になっても、それを5分過ぎてもだれも姿を見せなかった。
もちろん真司郎も……。