真司郎side
「どうしたん? 」
実彩子の朝ごはんを食べて早めに部室に行くと、もう既に何人か来ていて、騒がしかった。
でもその空気感からなにかあったんだということは分かる。
「與先輩。実は…………。」
全てを教えてくれたのは高1の後輩だった。
「相手チームが来ない?何で??」
「監督が連絡を取ってるんですけど。
そしたら、”昨日の時点でそちらから断りの電話を入れてきた”って言ってるみたいで。」
「断りの電話?」
「もちろん監督はそんなことしてません。でも、向こうの監督はその一点張りだし、今から試合は無理だと…………。」
「試合ができない…………?」
全身に衝撃が走ったような気がした。
気づいたら監督から電話をひったくっていた。
「部員の與です。どういうことですか?」
電話の向こう側が急なことに驚いてるのがわかった。
でも、驚きはじきに呆れに変わる。
「だからそちらの監督さんにも言ったけど、断ってきたのはそっちなんだって。今更生徒集めて試合なんて出来ないよ。」
「こっちはそんなことしてません!」
「そんな事言われても。ちゃんと学校名言われたんだから。」
「それ、本当に監督でしたか?」
「監督さんではないよ?」
「……は?」
「監督が連絡出来ないから代わりに自分がしてるって言ってたからその人。」
「代わり…………。」
「もういいかな?今日はとにかく無理だから。またの機会に。」
「あっ!ちょっ!!」
ツーツーツー……………………
「與、もういい。」
監督に諭されてその場に座り込むけど、やっぱり納得できない。
「……今日の試合は中止にする。」
「そんな……。待っててくれる、応援してくれる人達がおるのにですか?!」
「しょうがないだろっ!!」
「…………。」
俺達は何も言えなかった。
だって…………悔しいのは監督やって一緒のはずやから。
「この件に関しては俺が考える。とりあえず応援に来てくれた人に謝りに行こう。」
実彩子ごめんな……。
みんなもごめんな…………。
日高side
「あ、出てきた、真司郎もいる。」
秀太のその一言でみんながそっちを向いた。
ただ部員は誰しも背中に喪失感を背負ってる気がした。
直「なにがあった?」
部員達はスタンドの前に1列に並ぶ。
レギュラーとかベンチとか関係なく全員。
「集まってくださった方々、ありがとうございます。」
動揺していたスタンドも監督の言葉で静まり返る。
「本当に申し訳ないのですが、この度こちらの不手際で試合をすることが……できなくなりました。」
「えっ…………。」
まさかの展開にだれもついていけない。
「応援に来てくださったみなさん、これからも野球部は頑張ります。次回も応援よろしくお願いします!!」
静まり返るスタンド。
頭を下げ続ける監督、部員。
「……はいっ!!」
そんななか初めて声を発したのは俺の隣にいた宇野だった。
「じゃあ俺もまた来ます!」
そんな宇野につられるように次々に好意的な言葉が投げかけられる。
もちろんそれだけじゃないし、無言で立ち去ってしまった人もいるけど、賛否両論あって当たり前だ。
部員にも真司郎にも好意的な想いはどどいてるはず。
秀「でも、なにがあったんだろうな……。」
真司郎を労うためにお弁当を持ってきてもらうのに宇野と千晃がいなくなったとき、ふと秀太が言った。
日「真司郎にちょっと聞いてみるか。」
直「與もあんなに張り切ってたからな。」
西「落ち込んでなきゃいいけど。」
秀「真司郎、あんまり見せないからね。そういうところ。」
日「大丈夫だろ。宇野がいれば。あの2人はホントの兄弟みたいなもんだし。」
なんの根拠もないけど、俺は大丈夫としか思えなかった。
宇野のあの姿を見たら。