日高side




宇野から電話があって、俺が言った一言は



明日の午後2時にうちに来て欲しい。




それ以外は何も言わなかった。







知ってるとも断言しなかったし、何を知ってるのかも一言も言わなかった。









「2007年……。」





図書館で9年前の新聞からなるべく情報をさがす。



伝えるならきちんと伝えたい。





宇野の両親、俺の両親、真司郎、そして、直也くんには宇野からの電話について話してあった。









集めた資料と家に帰ると、そこには俺が呼んだ来客がいた。







「……早かったな。」





「早い方が俺にとっても日高にとってもいいだろ。」






そう言ったあいつの目はいつもとは違う。



なにかを守るために敵に刃向かうような目。





この話をしたところで俺らの関係が変わることがない。


そう言い切りたいのに、なぜ言い切れないんだろう。



でも、大丈夫だと信じるしかなかった。



















真司郎side




日高から実彩子が日高に電話したことを聞いて、正直驚いたし、そこまで実彩子が追い詰められてることに気づけなかった自分が本当にイヤやった。







2007年7月10日。




俺はまだ6歳。


ホントなら15歳の今、6歳のときの記憶がある方が珍しい。






でも俺はあの時の記憶がハッキリある。






当時は京都にいた。




けど、あのことがきっかけですぐに両親と東京に来た。




でも、来たところで6歳児に出来ることなんてなにもなかった。




何回か遊びに来て仲良くなってた日高の隣にただただ座ってるしかなかった。








きっとあの時の悔しさは日高も一緒なんやと思う。





そして今どうしても実彩子の隣にいたくて、俺も日高の家に向かう。








でもまさかあいつがいるなんて予想してへんかったんや。






いつか話さないけないことは分かってたけど、まさかって。








「なんでおるん?」






「俺が呼んだんだ。こいつも一緒の方がいいだろ?」








手の汗と鼓動が止まらないのは俺や日高だけじゃなかった。














宇野side




日高くんに指定された時間に日高くんの家に向かう。






正直、不安でいっぱいだし、日高くんのあんな真剣な声を聞いたらこれからなにが起こるのか、そんなことばっかり考えてしまう。




日高くんの家の近くまで来た時、見覚えのある背中が2つあった。




なんだか隠れながら日高くんの家の様子を見てるみたい。





「千晃、秀太?」




「わっ!!!」



「ほら、こんなことしとるから見つかるんよ。」







案の定、千晃と秀太。

秀太は呆れてるけど、千晃はちょっとバツが悪そう。







宇「どうかしたの?」




千「うん……あのね。」




宇「うん。」




千「さっき、偶然だっちゃん家の前でにっしーとだっちゃんが話してるのを見て……。」





宇「それは……たまたま会ったから話してた、とかじゃないの?」




千「いや……2人とも空気感が違くて……。」




宇「空気感?」




秀「言い争ってるわけじゃないんだけど、殺伐とした空気ではあった。」







そのことに関しては全然分からない。



ただ2人が偶然会って話してただけかもしれない。

でも、千晃と秀太が違和感を感じたなら、きっとそこには何かがあった。


それが私のことと関係があるなんて全然分からないのに、なぜか私の中は不安でいっぱいだった。




千「宇野ちゃん?大丈夫?」




目の前にいる千晃と秀太は心配顔。


いつも気にかけてくれて心配してくれる。



きっと、いや、絶対これから先もこの2人とは繋がっていく。



そう思うから、





「千晃、秀太。」




2人を呼び止めたのか。




それとも。




「一緒に来てくれない?」





ただ何もわからない私1人で受け止め切る自信がなくて、巻き込んでしまったのか。






そのときの私はそれすらも分からずにいた。