次に気づいた時、俺らがいたのは、窓のない部屋だった。





つまり、地下室。






宇野ちゃんを起こして、幼いながらに状況を理解しようと地下室を見てまわった。








ビックリするくらい設備が整ってる。




トイレ、お風呂、キッチン、すべて整っていた。








でも、外に繋がるであろうドアには鍵が掛けられていて出ることが出来ない。








それに、床以外が全てがコンクリートで、電球は裸電気。







それが殺風景さと不気味さを醸し出す。











寂しさと不安でいっぱいで泣きそうな宇野ちゃんを慰めながらも俺もパニックになってた。





















どれ位時間が経ったんだろうか。








暫くするとあの男が出てきたんだ。










さっきまでの優しそうな男じゃなかった。








なにかに成功して、これからの展開に笑みが抑えられない、そんな顔。





そしてその顔が捉えてるのは宇野ちゃんだけだった。










咄嗟に思ったんだ。












俺がこの子を守らないといけないんだって。





















男は殺風景な部屋に色んなものを持ち込み始めた。







それは全て……宇野ちゃんのもの。








ウェディングドレス……チャイナドレス……






全部子供のサイズに合わせて作られたもの。















「これ、着てくれないかな?」













やがて男が差し出してきたのは紫色のドレス。









俺も宇野ちゃんもどうしたらいいか分からなくて、宇野ちゃんは従うしかなかった。











「……うん、いい。凄くいい!!
断然こっちの方がいい。
ちょっと待って。


…………はい、いくよ、はい、チーズ。」













ドレスを着せては写真を撮る。








それが何回も行われた。







俺は無意識のうちにそれを黙って見ていた。





その方が安全だし、大人しくしていれば、必ずお父さんが迎えに来てくれるって信じてた。












窓のない空間の中で時間は全然分からない。











でも、とりあえず生活には不便はしてなかった。










外には出られないけど、食事は与えられる。

















────そんな生活も長くは続かなかったけれど。









そのうち男は時間を問わず部屋にやってくるようになった。









俺らが寝ててもお構い無し。








たたき起こして宇野ちゃんに洋服を着せ、写真を撮った。










そんなことをすればするほど、宇野ちゃんは日に日に憔悴していく。








なのに、男は自分に従わせて、弱っている宇野ちゃんを無理やり立たせた。

























────────黙ってられなかった。
















今思えば、その時の方がよっぽど良かったのに。


















「やめろよ!!」
























ずっと黙って見ていただけの俺がその一言を発してしまった。












でも、それなりの覚悟はあって言ってる。















背中に宇野ちゃんを隠して、男を睨みながら言い放った。



















「……………………。」




















なのに、男は何も言わない。









さっきまで見せていた不気味な笑顔はどこかに消えて、その顔にはなにもなかった。










瞬きもせずに俺を見つめる。












そのうち、急に男は踵を返して部屋から出ていった。















「ごめん、みーちゃん……。」












「ううん。たぁくん、ありがとう。」













ここから自力で出ることは俺たちには出来ない。











でも、男には抗おう、そう思ってしまった。













でも、誘拐された身である俺らにそんな選択肢無かったんだ。












その日からぱったり…………





























食事が与えられなくなった。












キッチンがあるから水は飲めるけど、食材は何一つ置いてなかった。












俺たちにはなす術がなかった。















そんな日が続いて、もう立つことさえおぼつかなくなった頃、男が現れたんだ。


















────────これで分かったか?

















その一言を”宇野ちゃん”に言った。
















そして、











「お前は来い。」




















俺はそのまま…………外に連れ出されたんだ。











もちろん抵抗した。









宇野ちゃんを1人にさせるわけにいかない。










恐らくかなりあいつは怒ってる。









何をするか分からない。













でも、7歳の子供が大人に勝てるはずがなかった。












あっという間に外に投げ出された……。

















久しぶりに見た外は全く知らないところだった。








周りには木が生えてるだけ。






きっと森の中だ。









しばらくは扉の前で叫んでた。









でも、びくともしなかった。







多分、今は朝。






夜になる前にどこかにたどり着ければ……。














必ず誰かを連れてくる。











そう約束して、後ろを振り返らず、俺は走り出した────。