宇野side
次々と明らかになるのは自分の過去のはずなのに、全然実感がない。
でも、それは”事実”だった。
なぜなら────
この話を聞けば聞くほど私の中で断片的に記憶が蘇ってくる。
一緒にいた男の子のことも……
部屋から出れない悔しさも……
支配された時の恐怖も……
地下室の様子も……
着させられたドレスも……
でも、男の顔だけは思い出すことが出来ない。
きっと、どこかで本能的に思い出すことを拒否してるんだ。
千「────宇野ちゃん、大丈夫?」
放心状態になっていて、気づいたら千晃が私の背中をさすってくれてた。
泣いてもおかしくない状況なのに、涙は全く出ない。
それどころかこの場を冷静に見てる自分がいる。
宇「うん。大丈夫。」
心配顔の千晃に笑いかけてあげたいのに……
できたのは口角をあげる、という行為だけだった。
「ねぇ。日高くん。」
「……ん?」
私にはどうしてもひとつ確認したいことがあった。
これからを生きていくためにも。
「その男の人…………
今もまだどこかで生きてるってことだよね?」
「…………。
そういうことになる。死んでない限り。」
躊躇いながらもはっきり答えてくれた日高くん。
この世界のどこかで生きている可能性があるんだ。
その恐怖と一緒に、何をされたか分からない自分の体で一生、生きていくことになる。
千「そんな…………。」
今にも泣きそうな千晃を秀太がなだめる。
秀「俺は……なんも変わらんよ?
宇野ちゃんは宇野ちゃんだから。
聞かしてくれてありがとう。」
宇「秀太…………。」
西「俺は…………。」
日「西島?」
西「俺は、小学生のころはただただ不安だった。
男があのとき反抗した仕返しをしにくるんじゃないか、って。
なん度もそんな夢を見た。
でも、次第に意識が、変わったんだ。
俺はいつか必ず、そいつを捕まえるんだって。」
そんなにっしーの目はかっこよくて、事件に立ち向かう覚悟が明確に見えた。
結局、その日はそのままお開きになった。
「真司郎。」
「ん?」
「真司郎が今の学校に入学したのって…………
私のため?」
「何言っとるん。俺は俺の意思でここに来たんよ。」
「────そっか。」
私の身に起こったことは事実。
それと私はどうやって向き合えばいいの?
「実彩子。」
「うん?」
「泣いていいんやで?っていうか泣かないと……。」
後ろから感じる真司郎のぬくもりにほっとする。
なんだかずっとひとりにされたみたいだったから。
人の、真司郎の、ぬくもりが温かい。
────でも、泣けなかった。
この仲間なら何が起きても大丈夫。
そんなこと思ってた私はいなくて、
今の私はどうしたらいいか分からない、真っ暗な中にいるだけだった。
そんなとき、ふと浮かんだ。
千晃の事件と真司郎の事件。
もしかして、あれも…………。
そんな可能性100%なわけじゃないのに一度疑い出すと、止まらない。
川口先輩が言ってた────。
親ではない、なにか大きなバックが付いてるって…………。
もしかしたら、私のせいで迷惑をかけるかもしれない。
日高くん、
にっしー、
真司郎、
千晃、
秀太、
直也くん……
大切な人はたくさんいる。
暗闇の中に取り残された私と、姿が見えないなにかとの戦いの火蓋がきられた瞬間だった────
SHEの事実 完結