西島side
「まだ宇野ちゃん、受け止めきれんのかな。」
宇野ちゃんに誘いを断られた千晃を慰めながら秀太が言った。
千「大丈夫かな、宇野ちゃん……。」
秀「正直、俺らもまだ受け止めきれてないよ。本人の宇野ちゃんならなおさらだよな。」
日「今は待つしかないのかもな。」
真「……実彩子、泣かへんねん。全然。」
西「泣かない?」
真「普通、不安とか混乱とかで泣くやろ?
それがないなら、怒るとか、なんか感情で吐き出すやん。でも、実彩子はあの日から感情が抜け落ちてんねん。」
日「笑わなくなったもんな……。」
真「ちゃんと受け入れる前に実彩子が実彩子に戻らんと。」
そんな宇野ちゃんに俺が掛けられる言葉があるんだろうか……。
日「1回、話した方がいいかもしんないな。」
でも────。
西「いや。」
日「ん?」
西「俺に、話させて。」
千「にっしー?」
西「宇野ちゃんと話がしたい。」
俺にしか伝えられないこと、ある気がするから。
日「────分かった。西島に任せるよ。」
日高の気持ちもわかる。
事件の時、支えられなかった分、今支えようと思ってるのも。
秀「でも、今避けられてる状況だから、話してくれるかどうか……。」
それでも俺は宇野ちゃんと話がしたい。
その日はそのままみんなと別れて部活に向かった。
あの日から宇野ちゃんだけじゃない。
みんな笑わなくなった。
その中でもこいつは……。
「日高。」
「ん?」
「日高のせいじゃないからな。」
「────え?」
「宇野ちゃんが笑わなくなったの、自分のせいとか思ってないよな?」
「────。」
めったに動揺することの無い日高の目が泳いでるのが分かる。
俺はいっつも日高に助けられてた。
宇野ちゃんに話す前、俺と日高が2人で話した時、日高は俺にこう言った。
”お前がどんな目的でここにいようが、ここがお前らしくいられる場所であるなら、お前らしくここにいればいい。それをおれは望んでる。”
って。
そんな言葉を掛けてくれた日高を俺は暗闇から引き上げてやりたい。
でも、それができるのは俺じゃなくて、きっと宇野ちゃんなんだ。
「…………おい、にっしま。」
「え?」
「あれ……宇野じゃない?」
「……え?!」
日高が指さしたのは校舎の最上階、屋上。
「もしかしてあいつっ……。」
「待って、日高!」
「でも!」
「宇野ちゃんはそんなことしない、それにそういう顔でもない。」
見にくいけど、宇野ちゃんの顔が見える。
その顔は悩み、苦しみ、そしてその苦しみから逃げようとしてる人の顔じゃない。
悩み、苦しみ────
もがいてる人の顔だ。
「俺に行かせてほしい。」
「……コーチには言っとく。お腹下してトイレ行ってるって。」
「だな。ありがとう。」
「早くいけよ。」
最後には躊躇いもなく俺の背中を押してくれた日高に背を向けて俺は宇野ちゃんの元へ走った。