西島side
俺の呼びかけに対して出てきてくれた宇野ちゃんに心底ほっとした。
「間に合った。」
「……どうして?」
「ここ、あそこから見えるよ。」
「え?!」
屋上に上がってたなんて知られたら正座での説教もの。
「隠れるならもっと上手く隠れないと。」
「ごめん……。」
「あ。」
恥ずかしいらしくて宇野ちゃんがちょっとだけ照れ笑いをしたのを俺は見逃さなかった。
「やっと笑った。」
「……え?」
「宇野ちゃん、ずっと表情が無かったから。感情が真っ白だった。」
そんな宇野ちゃんが自然に感情を出してくれたことが素直に嬉しい。
「……。私……。」
「宇野ちゃん。時間が止まってるのは宇野ちゃんだけじゃないよ。」
「……。」
「宇野ちゃんだけ取り残されてる訳じゃないよ?
俺だって正直、あの日から時間が止まってる自分がいる。
世界共通の時間って何してても勝手に進んじゃうものだけど、自分の中の時間って自分が進めるか止めるか選択できるものなんだよ。
それを俺と宇野ちゃんは止める選択をしてるだけだ。
自分が進めたいって思ったとき、時間は時を刻んでくれる。
だから、無理に進もうって思わなくていいんじゃないかな?
これが宇野ちゃんと同じ事件に遭遇して、もがいた俺の答え。」
俺は日高みたいにうまい事言えないし、直也くんみたいに話すの上手くないからこそ、思ったことをそのまま宇野ちゃんに伝えることが出来たと思う。
「────えっちょ、宇野ちゃん!」
気づいたら宇野ちゃんがへなへなと地面に座り込んでいた。
「……ごめん。」
顔をのぞき込むと、泣いてはないけど、少し表情が柔らかくなった宇野ちゃんがそこにいた。
「にっしー。」
「うん?」
「ありがとう。なんか力抜けちゃった。」
そう言って眉毛を八の字にして笑う宇野ちゃんをそっと抱きしめた。
「にっしー?」
「あと、もう一つ。分かってないみたいだから、言うよ?」
「うん……。」
「宇野ちゃんがみんなに迷惑をかけることはない。っていうかみんな宇野ちゃんが隣にいてほしいんだよ。」
「……なんで分かっちゃうの?エスパー?」
「ふふっ。違うよ。俺もこっちの学校に転校するときに思ったんだ。同じこと。でも、転校してきた。その理由分かる?」
「なに?」
あの頃より大人になったけど、華奢にもなった宇野ちゃんを壊さないようにそっと、でも、ヒトの温もりをちゃんと感じれるようにしっかり抱きしめるために腕に力を込めて引き寄せる。
「宇野ちゃんを守りたかったから。
俺の自己満足だって分かってる。でももし、なにかあって苦しんでる時にこうやって抱き締めてあげたい、その苦しさを聞きたい、そう思ったから。
でも、実際、日高がいたから俺がいなくても良かったのかななんて思う時もあるけどね。」
「────そんなこと、ないよ。」
そう言った宇野ちゃんは俺の背中にそっと手を回してくれた。
そして、同じリズムで優しく叩いてくれた。
それだけで弱い俺の涙腺は壊れそうになった。
「にっしーの方が苦しいはずなのに、いまだってこうして私の心配をしてくれてる。
私にとって今この瞬間にっしーは私を助けてくれた恩人だもん。」
「……助けられた?」
「うん。私、無理に時間進めようとしてた。でも、自分のペースでやっていくよ。」
「良かった。みんな宇野ちゃんのこと、待ってるから。みんな宇野ちゃんをそのまま受け止めてくれる人たちでしょ?
1番付き合いが短い俺でも分かってるんだから宇野ちゃんは十分に分かってるよね?」
「もちろん。今を楽しまないと勿体ないし、みんなにも悪いもんね。」
全てを解決することはまだ出来ない。
気持ちもまだ整理つかないはず。
それでも前を見ようとする宇野ちゃん。
今の宇野ちゃんの笑顔には太陽のような輝きより夕陽のようなあったかい光が似合ってる────。
その時の俺は心配しているもう一つのことを忘れちゃうくらい嬉しさに浸っていた。