真司郎side
「初めまして、北坂涼、です。」
あの時の相手が今、目の前におる。
案内された事務所は小さくて、北坂涼ひとりだった。
「教師をしております、浦田直也と申します。」
直也くんと北坂さんが名刺を交換する。
日「教師って名刺持ってんだ……。」
直「まぁ、一応な。あ、教え子の日高光啓と……」
涼「與真司郎、さん。」
直「……そうです。」
真「聞きたいことがいっぱいあるんやけど。」
日「ちょ、真司郎そんながっつかなくても。」
日高の言葉なんて耳に入らんかった。
知りたいことが沢山ある。
真「なんで俺のこと、知っとるん?
なんで、実彩子のこと、聞いてきたん?」
北坂涼はしばらく俺らを見つめてからこう言った。
涼「まさか、訪ねてきて下さるとは思わなかったわ。
そうね……
全部イチから話す必要がありそうね。」
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私の母と父は同じ高校だったの。
しかも偶然、同じ苗字。
北坂なんて苗字珍しいでしょ。
そのことから意気投合して、2人は付き合い始めた。
でも、色んなものが積み重なって、長年の付き合いを終わりを迎えた。
その直後よ。
母が私を身ごもっていたことを知ったのは。
母は女手一つで私を育ててくれた。
その母は私が20歳の時に亡くなったわ。
その後、私は知りたくなったの。
母があまり話したがらなかった自分の父親がどんな人で今どんな暮らしをしているのか。
もともと高校を卒業してから、調査会社に勤めてた私はこれを機に独立しようと思って、お金を貯めながら、本格的に探偵になるための勉強を始めた。
そして、22のとき、この事務所を立ち上げたの。
大きな負担は背負いたくなったし何がいつどうなるかも分かんなかったから、事務所はなるべく小さく、従業員もほとんど雇わず。
人脈を得る為に父親の調査をする前に、色んな人から依頼を受けて調査したわ。
情報のツテとか、信頼とか色んなものを得てから私は父の調査を始めた。
父の所在を知るのにはあんまり時間はかからなかった。
なんせ同じ市内に住んでいたんだもの。
そして、それと同時に弟でもある朋也と知り合ったの。
朋也はもう高校生だったし、てっきり知ってるんだと思って私、腹違いの姉だって言ったのよ。
でも、朋也は知らなかった……。
申し訳ないことしたなって思ったけど、でも、朋也は意外とすんなり受け入れてくれた。
腹違いでも姉弟だからか気が合う兄弟がいるのは嬉しいって。
父親のことも教えてくれた。
教師やってて、生徒にも慕われてるって。
そして、
浦田さん。
あなたの話は何回も聞いたわ。
すげぇーいい奴なんだって。
いっつも言ってた。
いつか紹介するから!って。
でも、
それは叶わなかった。
やっと出会えて、1年で朋也が事故で亡くなった……。
悲しかった……。
お葬式にも行きたかったわ。
でも、もしかしたらあの人が気づくかもしれない。
今の奥さんはこのことを知らないからきっといい気はしないはず。
だから、目の前まで行ったけど、どうしても入れなかった。
自分の父親のことも知れたし、思い残すことは無い。
これ以上あの家族と関わることは無いと思ってた。
なのに。
今から2年前たまたま依頼の用事で北坂の家がある方へ行っていた時……
自分の父親と父と同じ年齢くらいの知らない男が言い争ってるのを見たのよ。
しかも、温厚だと朋也から聞いていた父親が激怒してた。
これはただ事じゃない、そう思って職業柄もあって、聞き耳をたてたの。
そしたら、その内容はすごいものだった
──────
あの事件は東京で起きたものだし、もう9年も経ってるんだ。
勘弁してくれ。
お前が犯した罪は大きいんだぞ?!
誘拐事件だそ?!
なぜ直ぐに自首しなかった?!
今でもその子たちが苦しんでるかもしれないのに!!
しょうがないだろ、抑えられなかったんだから!
せめても、そのことを肝に銘じて真面目に生きろよ!!
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誘拐事件?
あの子達?
東京……9年前……
つまり未解決誘拐事件。
すごいことを聞いてしまったと思ったわ。
それと同時に調べなきゃいけないって思ったの。
それが私と事件との出逢い──────
つまり俺達の出逢いの始まり──────