秀太side
──────誰だ。
外からそう言った声が聞こえた。
思わず千晃と目を合わせる。
車から出た直也くんたちが誰かに見つかったかもしれない。
「千晃、お前屈んでろ。」
「秀ちゃん……。」
「……千晃?」
千晃は窓から外の1点を見つめたまま動かない。
千晃の視線の先には直也くんたちに声をかけてる1人の男。
あの人が犯人……?
「どうした、千晃?」
「私、あの人知ってる……。」
「え?」
まさか千晃まで知ってる人だとは思ってなかった。
日高が宇野ちゃんとは知り合いみたいだったと言ってはいたけど……。
「知り合いか?」
「知り合いっていうか……
体育祭のとき、話してたの。
宇野ちゃんとあの人が……。
あの人、すごい優しそうだったのに……。」
「あの人が犯人って決まったわけじゃないから……。」
「犯人でもない人がこんな所にいるはずないじゃない……。」
千晃が言った言葉に俺は何も言うことが出来ない。
「ねぇ、何か話し込んでるわよ。」
そう言ったのは俺らと一緒に車に残ってる西村先生。
ある一定の距離を保ってその人と直也くんたちは話してる。
日高の目つきが見たことないくらい鋭いのがこの距離でも分かる。
「なに話してるのかな……。大丈夫かな……
?」
「ここからじゃ分かんないな……。」
そんな日高が少しだけ動いた気がした。
「だっちゃん…………何やってるんだろ?」
千晃も気づいたみたいで怪訝な顔をする。
──────Pruu……Pruu……
「俺だ……。日高?」
俺の携帯に電話がかかってきて、しかもそれは日高からだった。
でも、窓から見る限りそこにいる日高はスマホを耳にあててない。
西村「向こうの話、聞かせてくれようとしてるんじゃない?」
そっか、日高なら……
千「確かに。だっちゃんなら有り得る……。」
俺は通話状態をスピーカーにする。
かすかではあるけど、会話の内容がわかる程度に聞こえてくる──────。
直也side
「私は高校の教師です。
教え子を返してもらうために来ました。」
声をかけてきた男性を見た途端、この人だ、と日高が言った。
聞いていた特徴とも一致している。
間違いなく、この人は宇野実彩子の行方知ってる。
「まさか先生が来るとは思ってなかったですよ。どうして警察を呼ばないんですか?」
そう。
俺らは自分たち以外誰も連れずにここへやって来ている。
普通に考えたら無謀なことだった。
だけど──────
「俺が、あなたと話がしたかった。
話せばわかる人だと、思ったから。
警察へはそれからでも遅くないです。」
見逃すつもりは毛頭ない。
罪は償ってほしい。
「あなたの教え子さんに何かあったらどうするんですか?」
この人はどこまでも余裕そうだった。
もちろん、この人が後ろにいる日高や西島、與を傷つける可能性もある。
そして、宇野も。
「あなたは傷つけるようなことはしない。
宇野も、
ここにいる俺の教え子も。」
そう言ったとき、初めて少しだけ眉が動いたのが分かった。
「……どうしてそう、言えるんですか?」
俺が、そう断言できる理由。
ここまで強気でこれてる理由。
それは──────
北坂さんにあった。
「北坂さんに聞いたんです。
9年前のおおまかな真相も、
あなたの事も。」
西「9年前の真相……?」
男の家に行って、日高と與を学校に帰した後、北坂さんに聞いた話を俺は誰にも話していなかった。
日「直也くん……?」
「今回のこと、あなたお一人でやった事じゃないですよね?
1人でやったにしては不自然なことがある。」
「あなた、北坂の知り合いでしたか……。」
ここからが終わりの始まり──────
なにも気にせず心から笑うために。