直也side









「会ってきました。……北坂涼さんに。」








男の家に行って、日高たちを学校に帰したあと、俺は北坂さんと合流していた。








その男と言い争っていた理由を聞くために。









「元気にしてた……?」







「えぇ。探偵事務所を開いていました。」









涼さんにもらった名刺を北坂さんに渡す。





それを見つめる目は間違いなく愛しい子供に向ける父親の目だった。












「北坂さん。聞きたいことがあります。」










まさかこんなことになるとは思わなかったよ、朋也。





でも、教え子を救うために俺は聞くぞ?




いいよな、朋也。






男と北坂さんの共犯…………





そんなことは絶対に無い。









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「まさか直也くんの教え子が被害者だなんて……。」






涼さんが言い争っているのを見て事件を調べだした、と俺が言った時は驚いてた。





でも、全てを話すと北坂さんは心底辛そうだった。






自分を責めているように見えた。








「全て、北坂さんが知っている全てを教えて頂けますか?」






もう情報源は北坂さんしかいないんだ。









「分かった。全てを話す……。」










──────











私の昔からの親友……








桂城悠太郎。










彼は結婚してから奥さんとの間に1人の男の子をもうけた。









どうしても女の子が欲しかった2人はもう1人産もうと考えたがなかなかできなくてね。










やっと長男が生まれて5年後に女の子が誕生した。











それはそれは2人は溺愛したみたいだよ。










長男も羨ましがるどころか自分も妹という存在が嬉しくて、可愛がってた。








その子の名前が……








桂城友香里。









友香里ちゃんはすくすくと元気に育ってね。







私も何度か会ったことがあるが、本当に可愛かった。









そんな友香里ちゃんに悲劇が起こったのが、9年前。





正確には事件が起こる3か月前。









家族全員でデパートに来ていた時、両親、兄が目を離した隙に友香里ちゃんがいなくなった。






家族はデパートにも協力して貰って探し回った。






でも、デパートだけあって規模は相当なもの。





しかも行方不明なのはまだ体も小さい子供。







なかなか見つからなかった。








そして…………










見つかった時、友香里ちゃんは息をしていなかった。


















事故、だった。









道路に飛び出してしまった友香里ちゃんに乗用車がぶつかった。









ブレーキをかけるのが遅かったため、友香里ちゃんは何メートルも引きづられたらしい。






病院に運ばれる前に亡くなったそうだ。











溺愛していた娘の突然の死。








両親は加害者より自分たちを相当責めていたよ。









その中でもお母さんは人一倍すごかった。








罪悪感と喪失感で奥さんは……










自殺をして、亡くなってしまった。











それからだよ。








桂城家がおかしくなったのは。









奥さんと娘を失って1ヶ月後。









悲しみにくれた彼が見たのは、娘とそっくりの女の子。








それが……










宇野実彩子ちゃん。











自分の娘が他人に取られたような感覚に陥った。







奪い返さなきゃ……









それしか考えられなかったそうだ。




その思いから宇野さんを誘拐してしまった──────。















私がその事を聞いたのは、今から1年前。










なぜか九州からこっちに引っ越してきた桂城と久しぶりに飲んで、酔っ払ったあいつが言ったんだ。








私は驚いた。






まさか親友が誘拐事件を犯して、罪を償ってないなんて。





今からでも遅くない。





自首させよう。





そうとも思った。








でも、事件から8年も経っている。










その子だって、その子の家族だって、もう忘れたいはず。









いまさらどうってことも…………











なんていうのは言い訳かもしれない。








親友だから、



そういう感情が無かったとは言いきれない。








結局私も弱かったんだ。








それから彼とはなんとなく疎遠になった。






桂城も罪を告白してしまった気まずさがあったと思う。






それから桂城とは会ってもいないし、話してもいない。









今、どこに住んでるかも分からないし、何をしているかも知らない──────






















北坂さんから聞いたことを男、桂城さんに突きつける。






















直「北坂さんに聞いたのはここまでです。



ここから先はあなたしか知らない。」








桂「…………。」










俺の後ろにいるのは


同じく事件に巻き込まれた西島


幼馴染みと離れ離れになった日高


姉のように慕う従兄弟の與。






誰もが桂城さんを恨んでいておかしくない。







西「桂城さん。」






西島の声が聞こえた時、西島がキレるんじゃないかと思った。







でも、そんな考えをもった俺は西島を甘く見ていたのかもしれない。






西「信じられないかもしれないですけど……




俺は宇野と一緒にあなたに誘拐された子供です。」







桂「…………あのときの……。」







直「西島……?」





西島が桂城さんに1歩近づく。



桂城さんに手を出してもおかしくない。




もし、そうなったら、俺が全力で止める……








西「桂城さん。







全てを教えてください。」











西島はそう言って頭を下げた──────




















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一部訂正させていただきました。



桂城さんの娘の名前を”美沙”となっていましたが、正しくは”友香里”です。



本当に申し訳ございません。




最終回までよろしくお願いします!!