日高side









桂城さんはしばらく黙ったあと、顔を上げた。








桂「西島くん、だよね?」







西「どうして俺の名前……?」








桂「新聞で見たんだ。君にはずっと謝りたいと思っていた。



もちろん宇野さんにも。」










そう言った桂城さんの目は心からの後悔を写しているように見えた。











真「だったら、早く実彩子を返してください。」










ずっと黙って耐えていた真司郎も耐えきてなくなってきている。











日「真司郎、落ち着け。」









真「落ち着けるわけないやろ?!」











真司郎の焦りも分かる。





目の前の人を憎む気持ちが1ミリもない、とは言えない。






でも、桂城さん自身もどこか助けを求めているような気がする。










桂「宇野さんを返すためにも全てを話します……。」











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大体は北坂が言った通りです。







他人様の子供なのに、自分の娘と錯覚し、守らなきゃと思うようになった。









そして、全ての準備が整ったあの日、実行に移した。









君という予想外な出来事もあった。



 

でも、さほど気にしなかったんだ。







この子の遊び相手になってくれるだろう、そのくらいの気持ちで君を巻き込んでしまった。









外に出られない場所に君たちを入れたのはあの事故を2度と起こしたくなかったから。









子供は目を離すとどこに行くか分からない。






外には危険がいっぱいある……。











考え方が歪んでるのは分かってる。








でも、当時はそれが正しいと思っていたんだ。











娘と宇野さんを重ねた。












友香里は…………

オシャレが好きな女の子だった。











何よりドレスが大好きで……。









まだまだ着れないウェディングドレスを街中で見つけては何分もそこにいた。










そんな友香里の要望に応えたくて……






 





本当に申し訳ないことをしたと思う。











その時の私はどうにかしてたんだ……。












西島くんが反抗してきた時、この子は危ないと思った。










友香里を守らないと……










この男の子は隣にいると危険だ……










すぐに追い出さないと……









でも、ちゃんと反抗することがいけないことだって教えないと駄目だ……








気がついたら何日も食事を与えてなかった。









西島くんを外に出すことになんの躊躇もなかった。









正直、どうでもよかったんだと思う。












この子を……友香里を守れればいいんだ。












他人の子なのに、そんな風に思って……
















ある日、ここから出たときに気づいた。











誘拐事件が起きていて、警察が総力をあげて捜査してる……






誘拐された、言われている子の写真を見て……









俺がやってるのは……犯罪なのか?って。












そう思ったら急に怖くなった。









自分のことしか考えられなくなった。











急いで戻ってきて、自分の物だけを持って逃げた。









逃げることしか頭になくて……









そのまま元々住んでいたところでしばらく息を潜めたあと、息子が小学校を卒業すると共に九州に渡った。





   





警察に捕まらなかったのは奇跡だと自分でも思う……。








今思うと……





本当に申し訳ないことをした……。









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桂「……これが9年前の全てです。」









それを聞いた西島も真司郎も直也くんも俺も何も言えなかった。








桂城さんが後悔してるように見えるから。







大切な人を失う悲しみは計り知れないから。




 

でも……





 

日「桂城さん。」






桂「はい。」







日「後悔、してるんですよね?」









桂「はい……。」









真「嘘や。」







直「真司郎。」








真「嘘やろ?!


だったらなんで今こんなことになってるん?!


後悔してるんやったら、実彩子に同じ思いさせるなんて有り得へんやろ!?」











真司郎の言うことは最もだった。




なんで後悔してるはずの人間が今、同じ罪を犯そうとしているのか……












直「今、宇野と一緒に中にいるのは……誰ですか?」










車内で西島が言ってた……。






今回は共犯がいるかもしれない。






じゃないと運転中にGPSが切れるはずかない。






ここにきて、無関係な人物が関わってるとは思えない。






同じように大切な人を失って、心に隙間ができた人……









その隙間を埋めようとしている人物……









そう考えると、1人しか思いつかなかった……。


















日「息子さん……ですか?」








桂城さんの肩がピクッと動いたのが分かった。










日「そうなんですね?」




















桂「私が悪いんです……。






息子の闇に気づけなかった……。








5年前、朋也くんの葬式に顔を出した時、宇野さんを見つけたんです。







もちろん自分のやったことを後悔してました。






元気に友達と歩いてる姿を見て、安心したんです。





それで終わるんだと思ってました。




 


でも、ちょうどその時期に息子が鎌倉に転勤になり、こっちに引っ越しました。







今回は見守っていよう。







でも、どうしても友香里が成長したらこうなるんだな……





そう思ってしまって。








毎朝ランニングを頑張る宇野さんに声を掛けてた……。





 

今日も本当に差し入れをするために学校に行ったんです。










──────正直に言います。









私も宇野さんと駐車場に向かってからの記憶がしばらくありません。









気付いたら、車内にいました……。





息子が運転する車に…………。」











日「つまり、今回のことは全て息子さんが……?」







桂「はい……。」


 




直「引っ越そうと言ってきたのも、書類を書いたのも……?」








桂「息子です……。」








真「……っあんた父親やろ?

やったら、息子の間違い、正さなあかんやろ!」







桂「分かってます!


でも……


無理だったんです。





昔の自分を見ているようで……。




何度も説得しました。






でも、

 





”親父も同じことやったんだろ?

止める権利ないだろ?”








そう言われたら、何も言えなかった……。







今日中に傷ひとつ付けずに返す。








それを約束させたんです……。」






そんな無茶な……。





そんな約束、守ってもらえる保証なんてどこにもない。








西「息子さんは本当にそれを守ってくれるんですか……?

 








宇野ちゃんに何かあったらどうするんだよ?!」






みんな同じ思いだ……。










直「とりあえず俺たちを中に入れてください。」










桂「危険です。何されるか分からない……。」











直「そんなこと、言ってる場合じゃないんです!!




…………早くここを開けてください。」











どんな事情があったにせよ、全く関係のない宇野が巻き込まれたことに怒りしか湧かない。








全てが分かった今、やることは宇野を日常に返すだけ──────。





















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昨日の公開分に引き続き、一部訂正させていただきました。





桂城さんの娘の名前を”美沙”となっていましたが、正しくは”友香里”です。





本当に申し訳ございません。




最終回までよろしくお願いします!!