西島side









暫く迷っていた桂城も直也くんの言葉に押されて、扉の鍵を開けた。









桂「私も一緒に行きます。





今の私にあの子をどうすることができるか分かりません……。





あの子のことをこうしてしまったのは自分なのに、私はあの子のことを理解することが出来ない………。







気をつけてください。」








俺らを気遣ってくれてるはずなのに、もう憤りともどかしさしか湧いてこなかった。









直「行きましょう。







お前ら俺より先に出るなよ。」








先生として生徒を守ろうとするのは正しいこと。








でも、直也くんを危ない目に合わせてる立場としてはその言葉に素直に頷くことが出なかった。









直也くんに続いて建物の中に入る…………。













その光景を見た瞬間、9年前にタイムスリップしたようだった。









自分の鼓動が早くなってるのが分かる。










日「西島、大丈夫か?」










背中に置かれた日高の手の暖かさが心強い。










西「サンキュ。」











何でお礼を言われたのか分からない日高は首を傾げてたけど、俺の気持ちの助けになったのは間違いなかった。










真「何やってるん。早く行くで。」









この不安と恐怖でいっぱいなはずなのに普通にしてくれる真司郎の優しさも。



















桂「…………ここです。」








見覚えのある扉であることは間違いなかったけど、こちら側からまじまじと見たことは無かった。










この先に…………宇野ちゃんがいる。













────────ブー










建物の中にも限らず、呼び鈴があった。








鳴らしてからしばらく静寂が続く。












「────なに?」












中から聞こえてきた男の声。











「私だ。頼まれてたもの、持ってきた。開けてくれないか?」










今まで気づかなかったけど、桂城さんの手には袋が持たれていて、多分中は食料だ。












「────────。」










しばらくして中から鍵が開く音が聞こえた。








いよいよ、だ。

















────────こいつら、誰。












俺らを見た、どこか桂城に似てる男は慌てもせず静かに言い放った。











直「中にいる人に会わせて欲しい。」










男に向き合った直也くんが言う。










「…………俺の質問に答えて。」





優しく言ってるつもりかもしれないけど、目は完全に怒っている。










直「俺は……。「待って。」」








直也くんが名乗ろうとしたのを俺が制した。






俺を見た直也くんも1歩引いてくれる。









西「9年前、俺は中にいる彼女と一緒に誘拐された。」








「…………へぇ。」









「9年経っても彼女が誘拐されるなら俺も誘拐しろ。」










何の迷いもなかった。










「お前バカ?妹と兄が一緒にいてなにが悪いんだよ。」











真「実彩子は…………あんたの妹やない!」








「はぁ?」








日「あんたもいい加減、現実を見ろ。」










「ふっ。うるさいんだけど。

俺と友香里の時間奪わないでくれる?

滅多に話せないんだよ。
いっぱい話したいじゃん。いっぱい遊びたいじゃん。」









西「そんなこと、彼女は望んでない。



彼女は早くここから出たいはずだ。」










「…………お前になにが分かんだよ。」








さっきまで余裕で少し笑みまで浮かべていた男の顔が変わった。















────────バンっ!!













男が閉めようとした扉を直也くんが抑える。










直「俺の教え子、返してくれる?」










その勢いで扉を開け放つ。











そこには宇野ちゃんが……














って思ってたのに、そこにはまた扉があった。













しかも暗証番号付きの。













日「暗証番号…………4ケタ…………。」








真「暗証番号なんて分かるわけないやん。」









「俺から友香里奪おうたってそんなことさせるわけないだろ!!」







男は完全に興奮してる。



俺らに怒ってる。








考えろ……。




暗証番号に使う数字……



この場所だからこそ……使う数字……。










日「あっ。」









日高も分かったみたいで思わず顔を合わせる。









西「友香里ちゃんの誕生日、教えてください。」








扉の前に佇んでいた桂城に問い詰める。










桂「えっ、友香里の誕生日……。」








「親父、余計なこと言ってんじゃねぇぞ?」









日「桂城!!後悔してんだろ!9年前のこと!」










桂「…………。」










完全に息子と俺らの板挟みになってる。







でも、俺らだって引くわけにいかない。











西「桂城っ!!」






桂城が選んだ答え…………










「おいっ!!」







さっきまで全然動かなかったのに、急に何かに突き動かされるように番号ボタンに向き合う。










「なにやってんだよっ!!」










桂城に襲いかかろうとする男をなんとか直也くんと日高が抑える。










真「早く!!」





手が震えてるせいで何度も打ちミスをするのがもどかしい。













────────ドンっ!!…………












何かが倒れるようなすごい音がして振り返ると……













そこには完全に伸びきった男が倒れていた。









そして、肩を上下させてる……














────────西村先生。













直「先生……。すごい……。」









「言ったでしょ。これでも柔道初段だって。」








多分、西村先生が男を投げた…………。





その後ろには秀太と千晃もいる。










秀「日高、サンキュ。全部聞こえた。」








日「おう。聞かせておいて良かった。助かった。


先生、ありがとうございます。」







「役に立てたなら良かったわ。」









日「秀太、千晃のこと、頼むな。」







秀「分かってる。それが俺の役割だから。」











「…………開きました。」






日「行くぞ、西島。」











桂城が開けた扉から思いっきり部屋に突っ込む。