西島side









「宇野ちゃん…………。」











また9年前が思い出されるように……









宇野ちゃんは笑顔で着るはずの、幸せな気持ちで着るはずのウェディングドレスを恐怖に満ちた顔で着ていた。







変わったのは俺らと服のサイズだけ……











「…………日高くん…………にっしー…………?」








宇野ちゃんはこの状況がまだ理解できないみたいだった。










千「宇野ちゃんっ!!」








千晃が宇野ちゃんに駆け寄って宇野ちゃんを抱きしめる。










「ちあき…………?」







「怖かったね。もう大丈夫だよ。」








「ちあきぃ………………。」









やっと、千晃の腕に安心したみたいで涙を流す宇野ちゃん。









日「良かった……。



直也くん、もういいよね?」









直「うん。通報してくる。」









真「良かったぁ。よし、はよ、ここ出よ。」








とりあえず宇野ちゃんは着替えさせられただけでなにもされて無さそうだ。








ここにたどり着くのにあまり時間がかからなかったのが幸いだった。













宇「おじさん……?」










宇野ちゃんの真っ赤になった目が桂城を捉える。








宇「おじさん、大丈夫?私のせいで……。」









宇野ちゃんは何も知らない。







まさかこの人が9年前、自分を誘拐した犯人、だなんて……。











真「実彩子、その人は……







日高?」










日「真司郎。今じゃない。」









そう。








いつかは全て言わなきゃいけない。







でも、その”いつか”は今じゃないんだ。










宇野ちゃんから出た思いがけない言葉に桂城は崩れ落ちた。











宇「おじさん……?」









秀「宇野ちゃん、早く帰ろう。おじさんは大丈夫だから。


これ、制服。そこにあった。それじゃ帰れないだろ。

俺ら出てるから千晃、手伝ってあげて。」





秀太が宇野ちゃんの制服を探し出してくれた。








千「うん。分かった。西村先生もお願いできますか?」







「分かったわ。」











俺らは揃って部屋から出た。



そこには電話を切った直也くんの姿。








直「通報、しといたから。











…………あれ?あいつは?」












真「あれ?ほんまや……。」










気づいた時には、西村先生が1本決めて伸びてたはずの男の姿がどこにもなかった。












日「あいつ、どこ行ってんだよ……?!」











直「俺、外見てくるから。お前らはここにいろ。」









真「俺も行く。1人で行動せんほうがええやろ。」










直也くんと真司郎が出ていく。




桂城はここにいる。





あいつは1人で逃げた……?








どこだ?────────



















宇野side







次に気づいた時には部屋には誰もいなかった。





夢であって欲しかったけど、現実であることに変わりはない…………。






でも、さっきとは何か違う。





外がすこし騒がしい気がする…………。





もしかしてあの人が怒ってる?





もしかしておじさんが危ない……?





そんなことを考え出したら、不安でいっぱいで、震える自分を自分ではどうにもできない。








────────ドンっ!!









何かが倒れた…………?






「なに…………?」







誰かが答えてくれるわけでもないのに、声に出してしまう。







しばらくして、扉が開く音がした。







もうダメかもしれない。




怒ったあの人に何かされるっ…………!!














「宇野ちゃん…………。」















え…………?








聞き覚えのある優しい声がして、顔を上げると、








会いたかった人、会いたかった人たちがそこにいた……。













うそ…………。











「日高くん…………にっしー…………。」











真司郎…………





直也くん…………






秀太…………






千晃…………








西村先生まで…………












「宇野ちゃんっ!!」









抱き締めてくれた千晃の温もりが暖かくて……嬉しくて……









「ちあきぃ…………。」











こみ上げてくる涙を止められなかった。


























おじさんのことは気になったけど、今は早く着替えて、ここから出ないと……。












「千晃、ありがとう。





西村先生もありがとうございます……。」












着替えるのも2人が手伝ってくれた。















────────コンコン













千「誰かな……?






……ん?こっち?」











ノックが聞こえるのはさっき千晃たちが入ってきた扉とは別の扉。







千「秀太かな?」










普通に考えれば分かった。







そんなの、おかしいって。








さっき入ってきた扉があるのにわざわざ中から鍵を開けないと入れない扉をノックするのはおかしいって。










でも、そのときの私は恐怖と不安から解放された安心感でそんなこと、考えられなかった……。








千晃だって、こんな場所に来て、きっと不安でいっぱいだったはず。







やっと、解決の兆しが見えてきて、それを疑うことができなかった。











その瞬間、その場で冷静にものを考えられたのは1人だけ。










「伊藤さん、待って!!」











西村先生だけ。











でも、西村先生の声は…………












間に合わなかった。











「どいてくれる?そこ。君に用はない。」








「な……なんで……?」










千晃が危ない………









「どけってっ!!」








「千晃!!!」









「きゃーっ!!!!」










男が振り上げたバットを振り下ろした────