真司郎side
「────直也くん、待って!!にっしーから電話や!!」
居なくなった男を探すために建物の周りを見ていたらにっしーから連絡が入った。
「もしもし、にっしー?」
(……真司郎!直也くんも一緒にこっち戻ってきて!!)
「ちょっ、にっしー、落ち着いて。」
電話越しのにっしーはなんや焦ってる。
「なにがあったん?」
(よく分かんないけど、あいつが部屋の中に戻ってきたんだよ!!)
「はぁ?!」
俺の声に直也くんも怪訝な顔をする。
(今、日高と西村先生が頑張ってるけど……。)
「わ、分かった!すぐ戻る!!」
電話を切って説明するのももどかしくて直也くんの手を持って走り出した。
「ちょっと、與!!何があった?!」
俺が出るトップスピードで直也くんを引きずりながら、ただでも短い説明を更に省略して直也くんに話す。
「あの扉か…………。」
「直也くん、どうやって入ってきたか分かるん?!」
「いないって分かった時からあの扉が怪しいとは思ってたんだよ!!だから、それ探してたの!!ちょっ、速いって!!」
気づかんかった…………。
そんなもう1個扉があったなんて。
直也くんがその扉を探してたなんて。
「直也くん!!真司郎!!」
着いた時にはちょうど秀太が千晃と西村先生を支えて出てきた。
直「遅くなって悪い。」
真「にっしーが連絡くれたんや。」
震える実彩子を支えるにっしーと目が合った。
日「直也くん、遅い!!」
部屋の中に足を踏み入れるとあいつと対峙してる日高がいた。
直「悪い…………
日高!!」
あっ…………
って思った時にはもう遅かった。
「────痛って……。」
日高の制服が切られて、そこから血が出てる…………
真「日高!!」
急いで日高に駆け寄る。
実彩子を傷つけられたのに、なんで日高まで傷つけられなあかんねん……
日「……っ大丈夫。そんな深くない……。」
そんなこと言ってるけど、血は止まらない。
目の前にいる男に怒りが湧いてくる。
でも、それ以上に何も出来なかった自分に腹がたった。
俺は9年経っても変わってないのかもしれない……。
男は人を切ってしまったことに動揺してる。
でも、それでも、男はまた俺らにナイフを振り上げてきた。
直「真司郎!」
絶対、負けへん。
そう、思って振り上げられたナイフを奪おうとした…………
けど、俺はナイフを奪うことが出来なかった。
それを受け止めた、別の人がいたから。
しかも、自分の肩、で────
直「桂城さん…………」
俺らと男の間に入ってナイフを受け止めたのは桂城さん……
日高の傷とは比べ物にならないくらい深いのは医者やなくても分かる。
血が流れだして、着ていた洋服を赤く染める。
「あっ………あっ………。」
人を切るだけやなくて、父親を刺してしまった男はナイフから手を離し、へなへなとその場に座り込んだ。
目が据わっていて、攻撃する気はもうないみたいだった。
直「桂城さん!!」
直也くんが駆け寄って自分の着ていた上着を脱ぎ、桂城さんの肩に巻き付ける。
「いっ…………。」
真「なんで、こんなこと……。」
「宇野さんや……君たちの……痛みに比べたら…………。」
直「話さない方がいいです。
……真司郎、救急車呼んで。
日高の腕も止血した方がいい。」
真「分かった……。」
俺の心の中は複雑やった。
恨んでいた、許せない仇がここまでするなんて……
宇野side
ずっとにっしーが付いていてくれて本当に心強い。
でも、同時に中にいる日高くんや真司郎、直也くんが心配だった。
日高くんなんて、ずっと入ったまま。
西「真司郎……」
真司郎が暗い顔をして出てくる。
秀「どうした?」
真「あいつは…………もう大丈夫。襲ってくることはないと思う。」
千「良かった…………。」
自然とため息が漏れた。
安心感で泣きそうになる。
秀「なのに、なんで真司郎はそんな泣きそうな顔してんだよ?」
真「────日高が怪我した……。」
西「えっ?!日高は?!」
真「そこまで深くはないんやけど、腕、切られた……。
動かない方がいいっていうから中におる……。」
宇「日高くん…………。」
真「それと…………。」
秀「真司郎?」
そのとき、微かにサイレンの音が聞こえた。
秀「……警察だ。直也くんが呼んでくれた。」
千「終わったね……。」
真司郎の妙に暗い顔が気になったけど、その時は自分のことでいっぱいいっぱいで……。
感覚も麻痺してて、どこまで大きな事件に巻き込まれたか自覚してなかった。
「大丈夫ですか?」
駆け付けてくれた警察の人に連れられて建物から出る。
救急車も到着していて、乗ってくださいと言われたけど、どうしても日高くんに会いたくて、日高くんを待った。
「…………日高くん。」
日高くんは腕に真司郎のセーターを巻いて少し顔色が悪く見えた。
「宇野……。良かったな、何もなくて。」
そんな優しい笑顔されたら……。
「宇野ちゃん、行こう。」
泣きそうになった私をにっしーが支えてくれて救急車に乗り込んだ。
千晃には秀太が、日高くんには真司郎がついて、直也くんと大丈夫だと言い切った西村先生が警察に行ったらしい。
救急車に乗ると、やっと心が軽くなってベットにそのまま身を任せた。
この時の私は事件の全てを知らなかった……。
なんでこの事件が起きたのか……
そんなこと、考える余裕がなかった。
無事に帰れる……それしか頭に無かったから。
全ての元凶が私だったのに……。