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正史は、ベンチで震える佐知の姿をじっと見ていた。


暫くして、徐に近付き声をかける。


「大丈夫?」


聞き覚えの無い声に、佐知は恐る恐る目線を向ける。


【聞こえない。】

【この人からは、聴こえて来ない。】

【みんなとは、違うの?】

【なぜ?】


佐知の頭の中を、

【?】

が駆け巡る。


「どうしたの?大丈夫?」


正史は心配そうに佐知の顔を覗き込んだ。


「はい…。大丈夫で‥す。」


思わず語尾が掠れそうになった。


本当は大丈夫ではない。


溢れかえる悪意で、佐知の頭は今にもパンクしそうだ。


「少し歩かない?」


佐知の心を見透かした様に正史は誘う。


佐知も取り敢えず誰もいない所へ行きたかった。


「う‥ん…」


佐知が答え終わる前に、正史は佐知の手を取り歩き出した。


「あ、あの、ちょっと…。どこに?」


正史はそれには答えず、ただ微笑むのみだ。


佐知も思わず微笑んだ。


相変わらず、周りからは悪意の洪水だが、
やはり正史からは悪意のひと欠片さえ感じられない。


佐知は不思議な感覚に支配され始めていた。


【このまま、この人とどこかに行ってしまいたい。】


溢れかえる悪意さえ、正史と一緒なら耐えられそうな気がする。


【たった今、会ったばかりだというのに。】



佐知の足取りが軽くなった。

まるで天使の羽根を、正史から受け取ったかの様に…。



つづく