IN OUT 不参加なのでポチッは不要です
PVアクセスランキング にほんブログ村


その日から奈緒と樫村医師による人格統合治療が始まった。

しかしこの治療はそう簡単に進むものでは無かった。

まず潜在意識の中のナオが自分が主人格では無い事を認めなければ始まらない。

その最初の一歩が一番困難を極める。

そしてその治療が行われていることを顕在しているナオは知らない。

樫村医師と奈緒の秘密の人格統合治療が重ねられながら、奈緒とナオは総理の仕事を続けていく。



ナオと奈緒が最初に目指したのは財務省の解体である。

最初・・・いや、これこそが根幹の改革である。

大和国最大の官僚機構で最大の権限を持ち、最大の抵抗勢力なのだ。

まずは臨時国会で最初の公約「消費税増税法案の廃案」をやり遂げなければならない。

そのための最初の閣議に財務省の官僚も出席を要望してきた。

独法では完膚無きまでやられた財務省であったが、この法案だけは何とか阻止したい財務省側も省内のエリートを揃えて閣議に臨んだ。

「では、閣議を始めます。本日の最初の案件は消費税増税廃止についてです。どなたかご意見ありますか?」

進行役の瓦斯が問いかけるとすぐに財務省側から手が挙がる。

「ふむ、財務省さん・・・ではどうぞ。」

官僚もここが関ヶ原の戦いであることは百も承知で、全精力をあげて用意したロジックを駆使してナオが述べる論理の否定を目論んでいた。

「前回、総理が仰られた事について再考させて頂きました。その結果ですが、大変申し訳け有りませんが次の様な問題点が御座いましたのでご報告させて頂きます。」

ナオは黙って聞いていたがその横顔は今にも吹き出しそうな笑顔である。

「え~、前回の会議で財務状況について問題無いと云う事でしたが、それは間違いであります。

確かに国債については・・・仰るとおり国民に返済の義務はございませんが、予算が税収から出ている事を鑑みますと、強ち(あながち)国民の借金と言う表現も間違いでは無いと思われます。

次に税収予測や社会保障費用の増大予測から考えますと、現在の税収では財政的な破綻が予測できる結果が出ましたので、その事も付け加えさせて頂きます。」

その後も財務省から延々と反対意見が続く。

それを最後まで一言も口を挟まず黙って聞いていたナオは、財務省の発言が終わった途端に反撃に出る。

「官僚さん、お疲れ様でした。上司に厳しく申し付けられたんでしょうね・・・本当にご苦労さま。

でもね、そのお力を馬鹿な上司のためじゃなくて、国民の為に使うのが本来のあなた方のお仕事なのよ。

そこが解って無いからこんな馬鹿な報告書を作り上げてしまうの。大体あなた方は東大の法学か経済学出身でしょ?

あそこの授業って良くて未だに時代遅れの「ケインズの財政主義理論」とか、「フリードマンの新自由主義理論」がメインでしょ?

ひどい教授だと何と!「マルクス経済学」とか真面目に教えてますよね?

そんな教授に習った事を未だに基礎知識として重宝しているから、実体経済が全くわからないのよ。

経済学なんて所詮は机上の空論だと云うことを理解しなさい。

まあ、それでも経済学を論議したいなら、最低でも「M M T理論」くらい勉強してからこの場に出てきなさい。

その上で私に論戦を挑むと言うなら議論してあげるわよ。

でも全く時間の無駄だったわ・・・今から全て論破してあげる。よく聞きなさい・・・・。」

ナオが財務省総掛かりで作り上げた報告書を根底から論破し始める。

1時間以上ナオの独演会が続き、財務省が提示した論拠の全てを論破し終わるとナオは非情な言葉を投げつけた。

「・・・ここまで無能な組織は無用ね。財務大臣、財務省は解体します。よろしいですか?」

この財務省の解体については内閣発足時に、大臣就任を要請した時点で話し合って決めていた事案であったので否と云う返事が返ってくる事は無い。

「ええ、私もそう思います。そこで私からの提案ですが、財務省を2分割、歳入庁と歳出庁にして予算編成は内閣府に予算編成局を創設するという事でいかがでしょう?」

この大臣の予算局を内閣府にと云う一言は財務省への死刑宣告に等しかった。

官僚が一斉に立ち上がりそれに反対を叫んだ。

「うるさい!!ここは閣議の場です。発言したいのであれば私の許可を受けなさい!」

瓦斯の一喝で一瞬静まり返る。

「財務大臣、良く仰っしゃいました。その言は良し、総理として許可します。

それで改革を進めて下さい。この件は以上。では次の懸案へ移ります。」

財務官僚は発言する機会を失い、たった今この国最大の官僚機構の解体が決まってしまった。

消費税増税廃案への反論が、何と財務省解体の議論へと導かれるとは思いもしなかった官僚たちは、それがナオの罠であった事に気が付くが時既に遅しであった。

呆然とする財務官僚たちを尻目にナオは次の話し合いを始めていた。


続く