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柴田 純は子供の頃から正直で生真面目な生き方をして来た。

真夜中の横断歩道で信号が赤なら例え車が一台も遠ていなくても渡らないと云う、ある意味堅ぶつな人生である。

そんな柴田に人生の転機が訪れたのは愛する妻が難病に罹患してしまった時だった。

堅物な柴田は見合った職業に就いていた。

銀行員である。

あまりに堅物なので上司ウケはあまり良くは無かったが、そこは銀行と云う職業である。

派手な営業職が出世のスピードは早かったが、柴田は出世に関心が無かった為行内に敵も居ない。

そのため同僚から警戒されることも無く、それなりのポジションへと遅ればせながらも昇進はしていった。

家庭内も穏やかで幸せな人生であった。

しかし妻が難病になってからその人生が狂い始めた。

その病気は長期間の治療が必要で、費用もかなりの金額と為る。

柴田は出来るだけのことはしていたが、とうとう資産が尽きてしまった。

そこから柴田の人生観が狂い始め、とうとう治療費の工面の為に借金を始める。

借金だけではどうこう出来る金額では無く、その借金で博打に走ると云う転落の典型である。

そしてついには倫理観も狂う。

銀行の金に手を付けてしまったのだ。

その額は徐々にに増え始め自分のしたことにハッと気がついたときには総額1億を超えていた。

もはや誤魔化しようの無い金額になっていた。

ある休日、呆然としながら近所の裏山に死に場所を探しに入った柴田の目の前に真っ赤な洋館が目に入った。

【相談処】

門にはその文字が刻まれた看板が掛かっていた。

フラフラとその門をくぐる柴田を玄関で出迎えたのは年端も行かぬ少女であった。

「いらっしゃいませ。」

にこやかに笑う少女は今まで死ぬことばかり考えていた柴田にその事を忘れさせる不思議な力があった。

「あの・・・少しご相談があるのですが・・・・。」

「はい、解っています。主人がお待ちしてますので、どうぞこちらへ。」

何故柴田を待っているのか?そう思ったが取り敢えずその少女の言葉に従って後をついて行った。

奥には大広間があり、そこに主人らしき人物が居た。

まるで大昔の花魁の様な出で立ちで椅子に腰掛け足を組む。

そこに顕になる太ももに柴田は目を奪われる。

「ふふふ・・・・そんなに見つめられると恥ずかしくなってくるじゃないさ。さっさと中に入りなさい。」

その言葉に柴田はハッとして顔を赤らめた。

「すいません・・・・失礼な事を・・・・。」

「ふふふ・・・・良いから、早く中に入りなさい。」

女主人の言葉に従い柴田が大広間に入ると、後ろのふすまが音もなく閉まる。

少々驚いて振り返る柴田に女主人が声を掛ける。

「そんなに驚かなくても良いわよ。ここは普通の場所じゃ無い事くらい想像がつくでしょ?」

そう言われると柴田も何となく納得した。

こんな山の中にこの様な洋館がある事事態がおかしいのだ。

「ここはどういう所なんですか?」

「ふふふ・・・・ここは心から願い事がある人にしか見えない所よ。」

柴田は自分自身、何を願っていたのか分からないが、確かに心から何かを願っていた気がした。

「ふふふ・・・・思い当たる事があるでしょ?・・・では、その願い事を叶えてあげるわよ。」

「えっ?・・・叶えてもらえるんですか?」

「そうよ、ここはそういう所なのよ。」

「・・・表の看板には相談処とありましたが・・・・。」

「そう、相談処よ。ふふふ・・・・でも、それを聞くだけじゃ意味が無いでしょ?死のうとしている人にとっては・・・。」

柴田は心を見透かされて驚いた。


続く