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★泰葉と侵入者の頭の中での会話が始めは分かり難いと思いますので、連載3回目迄(赤字→泰葉 青字→侵入者)で表記しております★


【ん?なんで?】

【だって・・・どうしてあなたが長崎弁を知っているのよ?】

【何の事だ?長崎弁?】

【そうよ。はぶてるって長崎弁なのよ。普通の人が知っている言葉じゃないわ。

【ふむ。確かに。はぶてるなんて聞いた事もなかった・・・気がする。】

【じゃあ、なんであなたが知っているの?やっぱり幻聴でしょ?そうなんでしょ?私がおかしくなったのよね・・・・。】

【違うって言ってるじゃないか。幻聴じゃない。俺は生きているんだ。

今の状況はサッパリ理解できないけど、それでも生きている実感はある。】


【だって、おかしいじゃない。知りもしない長崎弁をあなたが知っているの。】

【だからそれは・・・お前の・・・記憶が流れ込んで来る感じなんだ。だから咄嗟に出た言葉だと思う。】

【・・・そうなの?・・・えぇっ!私の記憶が・・・全部??】

【あ、ああ・・・う~んっと・・・小学生の時に肥溜めに落ちたとか・・・ぷっ・・マジか??】

【きゃ~~!!!忘れていたのにぃ~!!!そんな事迄・・・・嫌なヤツ!嫌なヤツ!!】

【ぷっ・・まあ、良いじゃないか。隠し事が無いのは良いことだよ。】

【そ、そんなの不公平じゃない!私はあなたの事全然解んないのに!】

【う~ん・・・そう言われてもなぁ~。まあ、良いじゃないか。その代わりに今の対局、勝たせてやるよ。どうだ?勝ちたいだろ?】

じっと鏡を見続けてまさに自問自答している気分の泰葉だった。

バン!バン!化粧台を手で再び叩く。

「上等だわ!良いわ。じゃあ、勝たせてよ。人生が掛かっているんだから、悪魔でもなんでも良いわ。魂でも何でも売ってやるわよ。」

【おい、声がデカイぞ。誰かに聞かれたら・・・性格悪いのがバレるぞ。】

【だ、誰が性格悪いのよ!私は・・・そんな・・・でも・・・無いわよ・・・。】

【アハ♪なんだ。自覚があるんだな。アハハハッ・・・・。】

「くっ!ムカつくヤツ・・・・。解っているんでしょうね?この対局がどれだけ私の人生を左右するのか?」

【ああ・・・解っているさ。奨励会は26歳の時点で四段になれなかったら強制退会だ。もうプロにはなれない。そして・・・・】

この対局が今期最後の対局であり、四段への昇段が掛かった一局だった。

(将棋は四段からプロと認められる。三段以下は奨励会と云う将棋連盟の育成組織である。)

対戦相手の山田三段、泰葉三段、他の対局を行っている山本三段が14勝3敗で並んでいる。

そしてその山本三段と対戦しているのは昨年の次点者(昇段は2名、3位は次点となり次年度勝敗が同数の場合優先権が与えられる。

また、次点2回で四段への昇段が認められる)田中三段で、今年も次点争いの13勝4敗であった。

この対局相手で解るように4名全てに昇段の可能性があり、全てに次点の可能性があった。

ただ、一つ条件が違うのが、この中で26歳なのは泰葉だけであると云う事だった。

つまり、他の三名は敗れようとも翌年があった。

又その三名には2位での昇段の可能性があった。

泰葉は負けると4敗となる。

仮に田中三段が敗れて5敗になったとしても3敗の山田、山本の昇段が決まる。

山本が敗れて泰葉、山本、田中が4敗で並ぶと昨年度の次点者である田中が優先されて昇段する。

泰葉は勝つしか昇段の可能性が無いのである。

そしてその対局は敗色濃厚な終盤を迎えていたのだ。

その時、この声が泰葉の頭に響き渡ったのだった。

「絶対勝ってやるんだ!負けるもんか!」

【だから~、はぶてるなって!】

【はぶてとらんもん!】


続く