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「お願いします・・・・。」

相対しているこの犬川荘助四段は三段リーグ時代に3度の対戦がある。

そして泰葉は3連敗しているのだ。

連盟がそれを知らない訳がない。

そして古河副会長もそれを知っているはずだ。

その相手が初戦の相手というのが偶然とは思えなかった。

そこには古河副会長の泰葉に対する思いが込められているはずだ。

そういう意味でも泰葉は負けるわけにはいかなかった。

三段リーグ時代に完膚なきまでにやられた居飛車穴熊(角に王様を囲って戦う超堅固な陣形)を今日も選択してきた犬川荘助四段に対して、

泰葉はその戦法へ待ったを掛ける「藤井システム」(居飛車が穴熊に囲う前に急戦を仕掛ける戦法)を採用した。

この藤井システムは一世を風靡した戦法だ。

それまで居飛車穴熊の圧倒的有利に風穴を空け、振り飛車の藤井猛八段(当時)がタイトルを次々に獲得した戦法である。

ただし・・・やはり数の力(圧倒的に居飛車党が多い棋士数の差)で居飛車側の研究によりその弱点を発見され、一大ブームは過ぎ去ってしまった。

しかし、まだ四段の犬川荘助になら通用しそうな戦法でもあるのだ。

何せこの戦法は難解でそうそう簡単に扱える戦法でもないのだ。

その戦法を頭の悪魔からみっちり教え込まれていた泰葉は、相手が又候穴熊を選択したと思った途端にこの藤井システムを発動させた。

穴熊に囲う間もなく急戦へと導かれ、犬川荘助は当てが外れる。

今では頭の悪魔から鍛えに鍛えられた泰葉とかなり棋力に開きが出来ているとも思わずに、三段リーグ時代のつもりで戦いを仕掛けた犬川荘助は中盤で早くも劣勢が明らかとなった。



控室で観戦していたいつもの面々はまたも驚きのため息をついた。

「ちょっと・・・さすがにこの短期間でここまで強くなるのは尋常では無い気がするな・・・。」

犬王タイトル保持者の玉梓犬伏が呟く。

側に居た観戦記者がそれを耳にして問いかけてきた。

「犬王、晴耕志さんはそんなに強くなっているんですか?」

「ああ・・・藪さんとの対戦も反則さえなければ勝っていたはずだし、先日のデビュー戦も完勝だった・・・。相手はA級やB級だと言うのに・・・だ。」

「今日も勝ちそうですよね。」

「勝ちそう・・・いや、負けそうに無いと言ったほうが良いかも知れないな。隙がない。」

「一体どうしたんでしょうか?」

「う~ん・・・いや、大体三段リーグの最終戦、最終盤での逆転勝ちの手筋が俺たちにも読めなかった手筋だった事を考えると・・・あの時から既にその片鱗は見えていたのかも知れないな・・・。」

「犬王・・・。と、言う事は・・・上位棋士のライバルになりそうな感じがすると?」

「そうだな・・・新人戦に勝ってしまうようなら・・・近い将来、我々の脅威になる気がする・・・。」

「えっ?・・・まさか・・・タイトル保持者の脅威って・・・・。」

「いや・・・そんな気がする・・・この感じはあの天才が現れた時の感じに似ている。」

「えっ?まさか・・・升鍵6冠と同じ感じですか?」

「ああ・・・。」



控室での会話など泰葉が知る由もなかったが、勝負は中盤でついた。

もはや相手は諦めた格好で、形作りに専念している。

泰葉は攻撃の手を緩める事無く、次々と決め手を繰り出した。

ついに犬川荘助は早々と投了してしまった。

まだ詰みがあるわけでもない場面である。

「負けました・・・・。いやあ・・・晴耕志さん、凄く強くなりましたね・・・。適わないや・・・・。」

「・・・・いえ・・・運が良かっただけです。ありがとうございました。」

【ふん、またおべんちゃら言いやがって・・・。ハッキリ言ってやれ。おめぇー弱すぎるぞって。】

【そ、そんな事言える訳ないじゃない・・・。もう、おすぎは口が悪いんだから・・・。】

【おい、さっさと感想戦やって帰ろうぜ。飽きちゃったぞ・・・。】

【あ・・・飽きちゃったって・・・。】

【ふん、こんな凡戦見ているより、お前を鍛えている方が楽しいわい。誂えるしな。わっはっはっは・・・・。】

【もう・・・・。おすぎってホントに升鍵名人なの?信じられなくなってきちゃうわ・・・。】



続く