「こんなにぐちゃぐちゃになるなら何故話した?」
「だって夏休みの思い出を聞かれたから。」
「夏休みの思い出なら他にもあるだろ。」
「でも俺にとっての夏の思い出はあの夏なんだ。」
「何があった?」
「何度聞かれたって言えない。」
「だったらいつまでもメソメソするんじゃない。」
「そうだよな…
もうあれから10年経つんだもんな。」
もうあれから10年…
潤は27歳。
もしかしたらもう結婚していて、子供がいて、幸せ暮らしてるかもしれない。
それを望んだのは俺なのに
なのに、いつまでも潤を思い出してメソメソして…
「会いに行ってくればいいじゃないか。
何があったのかは分からないがちゃんとけりをつけてきたほうがいい。」
「けりなんかつかない。
もっと苦しくなるだけ…」
「櫻井…」
「ごめんね。松井さん。
また夏が終われば思い出さなくなるから。
これまでだってそうだったでしょ?」
「そうだな。」
「てか、夏にコンサート出来るように調整してよ。夏がもっと忙しければ思い出す暇もなくなる。」
「コンサートの日程なんて俺がどうこう出来る話じゃないからな。」
「でも松井さんならやってくれるでしょ?」
「どうかな。」
「頼りにしてます。」
そうは言っても今年のコンサートはいつもの冬で、夏が終われば本格的に準備が始まる。
あんなに思い出して泣いたのに、泣く暇もないほど忙しく過ごした。
そして冬のコンサートが始まった。
いつものように、会場を見回して、万遍なく上のほーも下のほーも会場全体にファンサをしていると、スタンド中段の辺りであるうちわが目に止まった。
【荷物 早く 取りに 来いよ】
その4連うちわを見てハッとした。
顔はよく見えないけど持っているのは男二人。
もしかしたら…って思った。
「松井さん!頼みがある!」
「なんだコンサート中に。」
松井さんならやってくれるハズ!