続きです!

 

※相櫻

※BL

 

自己責任でお願いします🙇🏻‍♀️

 

 

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明らかに雅紀は俺を避けてる。

 

夕食の時も一度だってこちらを見ない。

俺が話を振ってもあしらうように交わされる。

 

様子がおかしいと察した和が俺と雅紀を交互に見ていたが、雅紀は何事もないようにヘラっとして祖父母と話していた。





 

「お兄ちゃん、まーくんと喧嘩したの?」

 

「へ?」

 

食後、いつものように俺の部屋で和と勉強をしていると唐突に和が聞いた。


 

「なんか、2人の感じ、変だよ。」

 

「変って…別に前からすっごい仲良しって感じでもなかっただろ。」

 

「でも!」

 

「ほら、和。手が止まってる。雅紀が帰ってきてもテスト終わるまでは」

 

「分かってるって、ちゃんと勉強するから。」


 

不貞腐れたようにそう言って、和はまたシャーペンを動かし始めた。



 

心当たりは一つだった。

 

雅紀が俺を避けているのは

智くんと付き合ってると思っているから。

 

それは自分から仕掛けたもので、

こうなることを望んでついた嘘だった。

 

それなのに、実際に距離を取られてショックを受けている自分がいる。

 

今まで雅紀と距離をとっていたのは自分の方だったくせに、虫が良すぎる。


 

「あ、お兄ちゃん!ここ教えて!」

 

「…」

 

「おーい、翔兄ちゃん?」

 

「っ、え、あ、ごめん。どこ?」

 

「もー、ちゃんと集中してよー!俺、早く終わらせてまーくんとお風呂入るんだから!」

 

「ごめん、ごめん。」


 

頬を膨らませて言った和の頭をポンポンと撫でて、教科書に視線を移した。





 

夜、喉が乾いて一階に降りた。

 

電気もつけず冷蔵庫から水を取り出して、

何気なくリビングの時計を見ると深夜1時半を少しすぎている。

 

今日は父が出張に行っているから、変な心配をする必要がなくて寝付きが良かったが

いつもの癖なのか長時間眠ることが難しくなってしまっていて、変な時間に目が覚めた。

 

おまけに、もう目は冴えてしまって眠気はどこかへ飛んでいったようだ。


 

「はぁ…。」


 

水の入ったペットボトルを持ったまま、リビングのソファにため息をつきながら腰を下した。


 

同じ家にいるのに、今まで以上に遠く感じてしまう。


 

俺が誰かと付き合ってると知ったからといって

避けることはないだろうと思う。

 

だけど、逆に雅紀が誰かと付き合っていると知ったら俺は冷静でいられる自信がない。

 

脳内で描かれる存在しないのっぺらぼうの雅紀の恋人を殴り殺したくなるほど腹が立ってきて、

持っていたペットボトルがベコっと音を立ててへこんだ。



 

ガチャ


 

「っ!」

 

「っ!…翔ちゃん」


 

突然開いたリビングのドアから現れたのは

今現在、自分の脳のほとんどを占めている雅紀だった。


 

「ま、雅紀…どうしたの?」

 

「あー、その、喉乾いて…」


 

相変わらず俺を見ることもなく言って、冷蔵庫を開ける雅紀。


 

「和は?」

 

「よく寝てる。」

 

「雅紀の部屋?」

 

「ううん、和くんの部屋。じゃ、これもらってく。」


 

雅紀は冷蔵庫から取り出したペットボトルを持って足速に去ろうとする。


 

「あ、ねぇ」


 

思わず呼び止めてしまった。


 

「なに?」


 

振り返らない雅紀はリビングのドアにかけた手を離さない。


 

「父さんが雅紀をこっちに連れ戻そうとしてる。」

 

「え?」


 

口をついて出た言葉は気持ち悪いほど自然な嘘だった。

だけど、おかげで振り返った雅紀がドアにかけていた手を離して俺を真っ直ぐに見る。


 

「バスケは中学で辞めさせて、高校は大学にエスカレーターで行ける進学校に入れようとしてる。」

 

「…まじで?…え、でも俺、推薦でそのまま高校進学していつかはプロにって…。この前だってNBAの人が何人か見にきてて…」


 

思い描いていた夢が叶わないと言われた時、 人はこんなに動揺するものだと思い知った。

 

瞳を泳がせて慌てる雅紀が不謹慎にも可愛い。


 

「雅紀、安心して。俺が父さんにお願いするから。」

 

 

こんなとんでもない嘘をついておいて、なんて恩着せがましい。


 

「そんなこと、できんの?」

 

「分かんない。俺は父さんに逆らったことなんてないからな。でも、雅紀のためだから。」

 

「翔ちゃん…。」

 

「また殴られるかもしれねぇけど、雅紀の夢を守れるなら俺はかまわないよ。」

 

「それはダメだよ!翔ちゃんが傷つくなら俺の夢なんてどうでもいい!」

 

「どうでもよくねぇよ。俺には雅紀の夢が大事だから。雅紀は難しいこと考えず、今まで通りバスケ頑張れよ。な?」


 

正義の味方かのような悪魔の戯言。

俺にも汚い父の血が流れているのではないかと錯覚してしまう。


 

「…翔ちゃんを犠牲にして叶えたい夢なんて俺にはないよ。」


 

俯いてボソッと呟いた雅紀。


 

「雅紀?」

 

「ちゃんと守ってくれる人がいるんだよね?」

 

「へ?」

 

「翔ちゃんのこと守ってくれる人が、…恋人がいるんだよね。…ちゃんと幸せなんだよね?」


 

雅紀の真っ直ぐに揺れる瞳は、暗いリビングに差し込む月明かりに反射していて綺麗だ。


 

「あぁ…、えと、お、俺は自分のこと自分で守れるから…。だから心配すんな。」

 

「別れたの?」

 

「ま、まぁ…やっぱ俺は欠陥品だからさ、普通に好かれるとか無理なんだよなw」

 

「翔ちゃんは欠陥品なんかじゃないよ!」

 

「欠陥品だよ。大事なものが欠けてる。出来損ないだから。」

 

「そんなことない!翔ちゃんは俺の自慢の……か、…家族だよ…」


 

声が尻窄みになる雅紀。

俺のことを家族と呼ぶのに抵抗がある理由は様々考えられる。

 

でもその理由の1つに俺の望んだものがあるなら。


 

「…じゃあ、雅紀が埋めてよ。俺の欠けてるとこ。」

 

「え?」

 

「バスケ。続けたいよな。」

 

「え、…う、うん。」

 

「俺が父さんに頼んでやるから。雅紀は俺を埋めて?」

 

「埋めてって…」


 

雅紀との距離を詰める。

後退りした雅紀の背中がトンっと音を立ててリビングのドアにぶつかった。


 

「雅紀はさ、付き合ってるやつ、いるの?」


 

少し高い位置にある雅紀の耳に口を寄せ、

囁いて聞いた。

 

フルフルと首を振った雅紀は、暗がりでもわかるくらい耳から首まで赤く染めている。

 

人間は欲望に弱すぎる。

 

あんなに神経質に雅紀との距離を保っていたくせに、

雅紀にすこし避けられただけで、自制心なんて消え去って無理矢理にでもこちらを向かせたくなる。