続きです。

 

※相櫻

※BL

 

 

自己責任でお願いします🙇🏻‍♀️

 

 

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「はぁ〜〜、寒…」

 

冬の朝は2割増で寒さを感じる。

部屋の中も玄関の外も大して気温は変わらないが、

あくびの後は決まり文句で言ってしまう。

 

さて、今日も仕事だ。

 

 

簡単にぶっ壊されそうなドアノブに鍵をかける。

 

 

ガタンッ

 

 

隣の部屋から大きな物音。

なぜか不穏な空気を感じて、忍足で隣の部屋の前を通り過ぎ、

早足でアパートの敷地から出た。

 

 

引っ越してきてもうすぐ1ヶ月。

実はあのアパートの住人に1人も会ったことがない。

大家さんの話では、全部で8部屋あって俺が入居したら5部屋埋まることになるそうだ。

 

 

「あと4人もいるのにこんなに会わないことなんてあんのかな…」

 

 

別に会いたいわけではないが、

社会人として引っ越しの挨拶を最低限するべきだったが、狭いアパートだからすぐに顔を合わせることになるだろうと思い、わざわざ挨拶に回らなかったことを少し悔やんでいる。

 

 

あんなボロアパートなのに毎晩毎晩女を連れ込んでお盛んな隣人はそうとうなプレイボーイであること以外、住人の情報は何もわからない。

 

 

かなり胡散臭いおじいさんが大家なアパートなだけある。

 

 

 

 

 

仕事から帰ってネクタイを外したのは午後8時を過ぎていた。

連日の残業で身体はかなりお疲れだ。

共用の風呂では満足出来なさそうだと思い、遅くまでやっている銭湯へ行くことにした。

 

 

お風呂セットを持って、玄関を出ると同じタイミングで隣の部屋のドアもバンッと音を立てて勢いよく開いた。

 

寒さを知らないのかと思うくらい露出の高い服装の女の人が叫ぶ。

 

 

「もうっ!雅紀のバカっ!知らない!」

 

 

そう言い残してドアも閉めずにヒールをカツカツと鳴らして行ってしまった。

 

 

「…。」

 

 

圧巻され、開いた口を閉じれずにいると

かなりの時差で女を追うように出てきた隣人。

 

ラフなスウェット姿でも分かるほどのスタイルの良さ、整った顔立ちでまさに色男という感じだ。

 

 

「あー、行っちゃった。コート忘れてるのに。…まいっか。」

 

 

いいのかよ!とツッコミたくなるのを抑えて、しれっと前を通り過ぎようとした。

 

 

「…あれ?お隣さん?」

 

 

予想外に呼び止められた。

 

 

「っ!え、あ…はい。」

 

「おー、よろしくね〜。」

 

「ど、どうも…」

 

「銭湯行くの?」

 

「はい…」

 

「今日寒いもんね!よし、俺も行こ!」

 

「え?」

 

「ちょっと待ってて!すぐ準備できるから」

 

「え?えっ!?」

 

 

悪気のなさそうな笑顔で言われ狼狽える自分をそよに、ドアも開けっぱなしでガサゴソと準備をしている隣人。

 

マイペースすぎるだろ、と心の中で言わずにはいられなかった。

 

 

「お待たせ〜!よし、行こっか!」

 

「…はい。」

 

 

俺たちって初対面だよね?と確認したくなるくらい、人懐っこい笑顔で当たり前のように会話を投げかけてくる隣人。

 

銭湯までの道を並んで歩くこの時間は何なんだろうか。

 

 

「お隣さん、名前は?」

 

「櫻井、翔です…」

 

「翔ちゃんか!」

 

「翔ちゃん…」

 

「嫌だった?」

 

「いや、俺もう32だし、ちゃん付けって…」

 

「え、32?同い年じゃん!」

 

「え!まじか…」

 

「うん、今月で32になるよ!」

 

「じゃあ、学年だったら一個下か。俺早生まれなんで。」

 

「そっか〜、学生で出会ってたら先輩だったのか〜」

 

 

学生だったら先輩、という言葉に少し腑に落ちないところがあったが目を瞑る。

 

 

「仕事は?何してんの?」

 

「普通に会社員、です。」

 

「ふーん。彼女はいるの?」

 

「…いませんけど。」

 

「えー!意外!モテそうなのに!」

 

「別に、そんなことは…」

 

 

モテるモテない以前に俺は人を好きにならないのだから、こんな質問は愚問だ。

 

 

「あ、ついた!」

 

 

そうこうしてる間に銭湯についていた。

 

未だ名前すら聞いていない同い年の隣人は銭湯のおじさんと知り合いらしく楽しそうに談笑を始めた。

 

それを脇目に通りすぎ、先に男湯の暖簾をくぐった。

荷物カゴに脱いだ服を乱雑にいれていく。

 

 

「ねぇ、」

 

「うぉっ!…な、なんですか。」

 

 

上半身の衣類を脱ぎ終わった素肌の肩に冷やっと冷たい感触が乗って、シンプルに驚いた。

 

俺の肩に顎を乗せた隣人が器用な上目遣いで俺を見る。

 

 

「置いてかないでよね〜、一緒に来てんだから」

 

「…え、ごめんなさい」

 

「フッ、そんなまじで謝んないでよ!冗談だって〜w」

 

「ハ、ハハハ…」

 

 

乾いた愛想笑いで交わすと隣人は俺の隣のカゴに脱いだ服を綺麗に畳んで入れ始めた。

 

意外と几帳面らしい。

 

 

「翔ちゃん、色白いね。」

 

「…そう、ですかね。」

 

「でも意外と鍛えてるね。」

 

「特別鍛えてるとかは、ないけど…」

 

 

そういう隣人は華奢ながらも筋肉がついていて、健康的な肌色だ。

 

これは女が黙ってないか、と納得する。

 

 

身体を洗って湯船に浸かっていると隣人は当然のように俺の隣にやってくる。

 

 

「やっぱ寒い日のお風呂は最高だね!」

 

「ですね。」

 

「アパートのお風呂は汚くてためれないもんね!」

 

「ですね。」

 

「先からそればっかりじゃんw」

 

 

適当な相槌を打っていれば、退屈して離れてくれると思ったのに予想外に笑われた。

 

 

「ねぇ、翔ちゃんは俺に聞きたいこととかないの?気にならない?お隣さんがどんな人か。」

 

 

気にならなくはない。

毎晩、わざとらしいほどの声で女を鳴かせる色男がどんなやつか興味はあるに決まってる。

 

 

「…じゃあ、名前はなんですか?」

 

「え、まだ言ってなかったっけ?!ごめん!俺の名前は相葉雅紀!」

 

「あいば、まさき…」

 

「うん!好きに呼んで!」

 

「じゃあ、同い年だし、相葉くんで。」

 

「他には?なんかない?聞きたいこと。」

 

「…仕事は、何をしてるんですか?」

 

「友達がやってるレストランを手伝ってる。まぁ、バイトみたいな感じ?はい、他には?」

 

 

名前は相葉雅紀。

32歳でフリーター。なのにモテる。

 

 

そんな情報だけで十分だと思った。

 

 

「もう、大丈夫です。」

 

「じゃあ俺からも聞いていい?」

 

 

ダメだと言っても聞いてきそうな雰囲気だ。

 

 

「…はい、どうぞ。」

 

「財布忘れちゃったんだけど、ここのお金貸してくれない?」

 

 

隣人情報に付け足した。

最低野郎、と。