地下一階からロビーに到着したエレベーターが開くと中には先客がいた。

 

 

「あれ、相葉くん。」

 

「おう、翔ちゃん。これ36階直通だけど乗る?」

 

「うん、俺も資料室行く。」

 

 

エレベーターの扉が閉まるとゆっくりと上に上がる感じがする。

 

 

「相葉くんは外回りの帰り?」

 

「そう。今日は早く上がらないとだからね。」

 

「お店、何時からだっけ?」

 

「一応、7時にしてるけどそれより早く行けそうなら行きたいかも。」

 

「分かった。」

 

 

今日も片づきそうにない仕事を抱えたデスクを思い出しながら、そう返事をした。

 

 

「っ!!?相葉くん!?」

 

 

階を上がっていくエレベーターの表示を見ながら

残った仕事を考えていると不意に後ろから抱きしめられた。

 

 

「早く家に帰って翔ちゃんを独り占めしたい。」

 

「いつもしてるじゃんw」

 

「明日の翔ちゃんは今日の翔ちゃんと違うから最後に思いっきりしたいのっ!」

 

「フフ、そんな変わんないと思うけどね…って!

ちょっと!相葉くん?!」

 

相葉くんの手がスーツのジャケットの中に忍び込み、シャツの上から胸の先を探す。

 

 

「大丈夫、これ直通だから。」

 

「そういうことじゃなくて…ン…」

 

 

胸の先端を見つけた相葉くんの指が摘んだり転がしたりして遊ばせる。

 

 

「こっち向いて?」

 

 

半ば強制的に向かい合わされ、胸から腰に滑る相葉くんの手。

お尻に優しく撫でられる。

 

 

「相葉くん…くすぐったい…」

 

「最後まではしないから。」

 

「当たり前だろ…。今、仕事ちゅ…」

 

「真面目だね〜。今日くらいはわがままでいいんだよ?」

 

「仕事は仕事。」

 

「困ったもんだw」

 

 

スルッと離れた相葉くんの手に少しの寂しさを感じながら、仕事中だからと断ったのは自分だろ?とツッコむ。

 

 

「相葉くん。もし、遅くなりそうだったら連絡するから先に店行ってて。」

 

「遅くなりそうなんだね。」

 

「…はい。」

 

「了解。また連絡して。」

 

 

ニコッと外行きの笑顔で返され、胸がザワッとする。

 

…呆れられたかな?

 

 

「ごめんね、相葉くん。」

 

「翔ちゃんは悪くないでしょ?」

 

 

ポーン

 

 

そのタイミングでエレベーターが到着の通知を鳴らした。

 

ゆっくりとドアが開いて、紳士な相葉くんが「お先にどうぞ」と言って開くボタンを押してくれる。

 

 

「ありがと…」

 

 

相葉くんもエレベーターを降りて、またゆっくりとドアが閉まる。

 

 

「じゃ、お互い仕事頑張ろうね。」

 

「…うん。あ、なるべく終わらせるようにするから!」

 

「無理しなくていいよ。」

 

 

期待されてないな…。

 

 

「ごめん、相葉くん…」

 

「だから翔ちゃんは悪くないでしょ?って。」

 

「でも…」

 

「怒ってないからw」

 

 

怒ってなくても呆れてはいる。

そんな気がした。

 

 

目的地の資料室とは逆方向へ歩いていく相葉くんの背中を見て、自分の不甲斐なさに肩を落とした。

 

 

相葉くんはこんなに完璧な恋人なのに…

 

 

完璧な人と言ってもらうことはよくある。

でも、それは仕事においてだけ。

 

人として、恋人として俺はあまりにも情けない。

 

 

「はぁ…ごめんね、相葉くん。」