出来事だけを綴ってみよう。
7日の金曜日、気紛れで夕食を家族と同じ時間に摂った。
いや、正確には摂ろうとした。
コンビニで買ったラーメンを温めて、私は姉に一口どうぞを渡して感想を聞いた。
それを見ていた母親が自分にも頂戴と言って来たのであげた。
麺だけでなく汁も頂戴と言ってきた母親の言葉に父親が反応した。
「だってご飯だけじゃなくて汁も欲しいもん」
「じゃけぇ、おめぇ、いつも言っとろうが。汁も用意せぇって。何でおめぇは用意せんのんなら?」
明らかに不機嫌。
これを見るのが嫌で私は時間をずらして、家族と夕飯を摂ろうと思わず、アレルギーのことでうだうだ言われるのも嫌で、結果的に誰かとご飯を食べることも、それ以前に「食べる」という行為が嫌いだった。
夕飯は一度始まると逃げられない。
「だったら私が入れるけど、なんの味がいい?」
そう聞けば良かったんだと思う。
でも、私も限界だったんだよ、今まで何度もそのやりとりをして来て、何故自分が気を遣わなくてはならないんだろうって。
母親の呑気さを。
「そんなん言ってたら自分が作れって言われるよ」
嫌味のつもりで言う姉の無思慮さを。
その言葉で更に癇癪を起す父親を。
その全てを否定したかった。
自分が今まで如何に気を遣っていたかを気付かせたかった。
姉の虐めの件でもそう。
夕飯時に三人が笑う食卓が酷い欺瞞に思えた。
10歳の少女がそう思うって笑っちゃうよね。
でも、もう限界だった。
母親が味噌汁を入れる為に出て行って、姉の言葉がありながらも食事をとるという行為に我慢できなかった。
私は箸を置いて、「私いらんから食べていいよ」と言って席を立って二階に行こうとした。
階段を上り始めて「カタンッ!」という音が響いた。
あの部屋には姉と父親の二人。
やっぱりな、と思って戻ったら案の定。
焼酎が入ったコップを勢いよくテーブルに打ち付けた音だった。
焼酎は零れ、姉がティッシュを持っていた。
「おい!もういらん!」
台所に立つ母親に大声で言い自分は片付けもせずに隣の部屋へ。
私は無言で零れた焼酎を拭いた。
幼い頃から他人の感情が怖かった。
怖くて震えながら拭いて、「どうしたん」という何も知らない顔で帰って来た母親に「あぁ、私のせいじゃわ」と一言伝えて2階の自分の部屋に戻って。
無理だった。
怒りで満ちた部屋と悔しさでないまぜになった自分の感情について行けずに震えて過呼吸を起こしながら叫んでた。
その声を聞いて姉が部屋に入って来た。
「何泣いとんよ!!!」
やっぱり、こいつは、いつまでたっても、わかってない。
「出て行って!」と控え目な口調で叫んでたら姉が叩いてきた。
「もっと大人になりねぇよ!」
可笑しくて思わず叫ぶことはやめた。
「何を言いよんなぁ!」
部屋の外から父親の声。
その声ではっと姉が声を潜めて出て行った。
私が悪かったのだろうか。
悪くないとは言わないけれども。
恐怖と怒りで涙が止まらず、一瞬カッターを手にした。
でもすぐに投げ捨てた。
この精神状態では深く切りすぎてしまうことがわかってた。
だからじっと腕に爪を立ててた。
それでもこの気持ちは収まらない。
誰かに助けて欲しいと初めて思って、携帯と財布とカッターを持って家を出た。
最初は友達に電話をしようか迷ったけど、ダメだった。
心配して来られてもダメ。
理由を話そうとしたら絶対泣いてしまう、あの感情がぶり返したら私は更にどこかに逃げて死んでしまうと思った。
躊躇わず、甘えて、社員さんに電話してしまった。
最初出なかったから少し冷静になった。
時期的に決算棚卸とか応援で忙しいのは知ってたから、もう少し落ち着いたら「何でもないよ」ってメールをすれば良いんだと。
時間的にも仕事だったら出られない時間だし、後から掛けてくるにしても数時間後だからと。
自分勝手で嫌になるなと思っていたら、縋るように握っていた携帯が震えた。
一瞬どうしようかと思った。
「お疲れ様です」
その声が聞こえて、こっちも「お疲れ様です」って少し笑いながら言ったけれども、何故か涙が溢れてきた。
いきなり電話して、いきなり泣き出して。
今は違う店舗に居るから急用なんかないのに電話をしたということでわかったんだと思う。
今思えばもうちょっと狼狽えてくれたほうが面白かったかもしれない。
他店の決算応援で行かなくちゃならないのに律儀に付き合ってくれた。
寒い中歩いて電話して少しだけ落ち着いたけど、部屋に戻ったらやっぱりだめで2時間ぐらいまた泣いた。
翌日から家で話をしなくなった。
会話の必要性が感じられなくなって、いつもみたいに歌うこともできなくなって、夕飯も食べれずに寝てしまうようになった。
そして水曜に熱が出て薬局に行った。
薬は15歳未満服用禁止のもの。
前に風邪薬で風が悪化したから病院には行くまいと思っていたのだけども、市販の薬でも悪化した。
土曜の昼に薬を飲んでバイトをしていたら次第に声が出難くなっていった。
日曜に声が出なくなり、月曜も出ず。
火曜は13時~21時の予定でシフトに入っていたけれども、足手まといになることはわかってたから違う子に頼んでくれるようマイナスイオンにお願いした。
無論筆談。
夜に電話が掛かってきたけど声が出ないので直接店に行ってみたら、月曜にシフトに入ってた子が代わりに出てくれるって。
すごく申し訳ないけれども3連休。
ようやく声が出るようにはなってきたかもしれない。
そうなるとやはり喋りたくない。
そうして、思い出しながら書いてきたけれども、何度泣いただろう。
結局未だ消化できていない。