12月24日午後7時。

アルマンディのクリスマスパーティでのミニファッションショーが始まった。会場入りから2時間。あれっきり姿を見ていない彼女は今どこに?

カメラテストなんてすぐ終わるだろうから、あとはパーティの方にパートナーとして参加してもらえばいいだけ・・・そこでは俺が見張ってられるから、馬の骨の処理も完璧、早く抜け出すことだけを考えればいい。と、思ってた俺が甘かったのか。

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12月24日午後7時40分。

ミニファッションショーが終わり、出演したモデルたちはパーティ用衣装へと着替え始めた。俺も着替えを急ぐ。彼女を探すために。

「蓮!お疲れさん。まあ、まだ帰れないけどな」
「社さん!今、探しに行こうとしていたところですよ。あの・・・最上さんは?一緒じゃないんですか?」

社さんを探す手間は省けたが、できれば彼女も連れてきてほしかった。

「すまん、蓮。俺はお払い箱になった。なんだか大事になってな」
「は?」

嫌な予感がする。

「キョーコちゃん・・・カメラテストの為に入ったフィッティングルームで大物に捕まっちまってな」
「・・・・・・」

「偶然みたいだが、本社の取締役兼主任デザイナーが顔を出して」
「・・・・・・」

「もの凄く気に入られて、彼の新作を着ての撮影が始まって・・・・・・」
「・・・・・・」

「今日会社のパーティだろ?すぐそこにいるからって、社長とかプレスとかも呼んじゃってさ」
「・・・・・・」

「で。いろいろあって。部外者のオレじゃなくて、京子ちゃんの担当者を呼べって話になって」
「・・・・・・」

「今は、椹さんが来てる。今日中っていうか、今すぐに契約しなくちゃいけない展開になってるみたいなんだ。今日のパーティでなにかしたいみたいで」
「・・・・・・」

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12月24日午後8時30分。

アナウンスのあと、会場の明かりが少し落とされ、ミニファッションショーが始まる前まで今年使った広告を映し出していたという大型スクリーンに再び映像が映し出された。


淡いピンクのオーガンジーのドレスを着たあどけない表情の天使が。


個性的なデザインの赤いミニドレスを身につけた凛とした美少女が。


大振りのアクセサリーと大胆にカットされた黒いロングドレスを身に纏った妖艶な美女が。


見覚えのあるこの本社ビルの屋上。雪の降りしきる幻想的な庭園を背景に、天使、美少女、美女となった彼女が少しづつ近づいてくる。


時折、顔や身体のパーツのアップも交え、その表情と美しさで、観るもの魅了していく。


そして。身体全体が画面に大きく映し出された瞬間、会場の明かりが元に戻り、会場の中央に彼女が現れた。アルマンディの最高経営責任者にその腕を絡ませた彼女が。


赤地に金糸銀糸の刺繍が見事な着物地を使った豪奢なドレス。
そして、それに負けない輝きを放つ、美しすぎる彼女が。


その横に立つ男性もまた個性的なスーツを身につけていた。長身で、シャープな印象を放つ大人の男。去年就任したばかりの、アルマンディの最高経営責任者アレクシス・ガーランド。


その顔には、商業誌などで見慣れた営業用スマイルではなく、愛するものを見つめる柔らかな視線と甘い微笑みをたたえていた。そして、彼女もまた同様の視線と笑みを彼に見せている。当然演技だろうけど・・・。


今日のこの大事な日になんでまた!太すぎる馬の骨を筆頭に会場中の人間を、男女構わず魅了してしまった彼女。そんな彼女を一刻も早く攫い出したいが、いちモデルに過ぎない俺にはそれができない。アルマンディの最高経営責任者が相手をしているのはアルマンディの大切な顧客であるVIPばかりだから。割り込めるわけがない。


くそ!なんで彼は独身なんだ。確か、33歳だったよな。なら他にもっと大人の女性がいるだろ!

最上さんから手を離せよ!内心で激しく悪態をつくも、それは負け犬の遠吠えのようで。

まさか、このまま彼に攫われていくハズはないとは思うが、まだ彼女を手に入れられていない俺の不安と嫉妬は高まるばかり。


続く


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