『悪い男』

「敦賀さん!なんてことしてくれたんですかぁ!」

彼女に本気で責められても、今日の俺は後悔なんてしない。

「酷いです!今回に限って事務所は協力してくれないし。他事務所の共演者の方に相談してやっと見つけたんですよ!なのに、なのにっ!か、勝手に…うっ…ひっく…」

か、彼女に泣かれても、今日の俺は怯まない…。

「ひっく…もう、敦賀さんなんて大嫌い!」

彼女に大嫌いと言われても、今日の俺は…俺はっ…。

「ひっく…もう敦賀さんとなんて別れちゃうんだから!」

彼女に別れると言われても、きょ、今日の俺は…………くっっ!!!!

「ごめん!本当にごめん!俺が悪かった」

「お願い、別れるなんて言わないで!」

「もう勝手なことしないから!」

「君と一緒に住みたかっただけなんだ!」

「お願い許して!」

前科何犯だか覚えてないほどいろいろ仕出かしてきたのは自覚している。

なので。

彼女の怒りはなかなか収まらず。

言葉で謝るだけではなんともならず。

今回も土下座でお詫びする俺。

なんか、格好悪いけどっ…。

これも、何度目か覚えてない位いつものこと。

最初の頃は本気な振りして謝れば許してくれたな。

それが通じなくなったときは、抱きしめて甘い言葉を織り交ぜて謝ってみせたら許してくれてた。

最近はそんなんじゃ無理なので。

身体全体で平謝り。

心の中ではちっとも悪いと思ってないけど。

ここで許してもらっておかないと、ホントに捨てられてしまう。
それだけは避けないと!

すっかり慣れてしまった彼女への土下座。

今回は俺の家でもラブミーの部室でもなく…

会社の廊下ですることになった。

ここでは初だな。

ほんと、人通りがなくてヨカッタ。

でも。

そのせいか、彼女が慌てて許してくれることもなく…



土下座で10分経過。

立てるかな、俺。


fin

魔人の中で「蓮の土下座ブーム」が巻き起こった2012年に書いた短編です。


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