このお話には<プロローグ>があります。未読の方は先にこちらをお読みください。
極甘地獄へようこそーサンドヘルに埋もれた男達ー】
<プロローグ>


【極甘地獄へようこそーサンドヘルに埋もれた男達ー】<その1 勇者社の不幸>


事務所での打ち合わせを終え、休憩中の蓮を迎えに行く途中、俺は嫌なものに遭遇してしまった。

「……またかっ!」

嫌なもの。それはもうすっかり見慣れてしまった、ある被害にあった者達の屍の様な姿とあり得ない生産物…の山、というか谷というか。

見たくなくても目に入ってしまうそれは、社の向かう道を埋め尽くす様な勢いで今もなお発生し続けている大量の砂であった。そしてそれは何故か人間の口から流れ出していた。

この摩訶不思議というか、あり得ない現象が、自分の日常となってしまっていることにショックを受けたのは何時のことだったか。

今では、この科学が進んだ現代でも解き明かせない謎の現象にもっとも耐えた、耐え続けている勇者として、業界での尊敬と同情を集めているそうだが・・・ハッキリ言って全く嬉しくない!


しかし、今はそんなことはどうだってよかった。


「晶はまだ怒ってるのかなぁ。ヤバいよなぁ」


今の俺の緊急課題はあのバカップルが生み出すサンドヘル、通称「極甘地獄」自体でも、増え続けるその被害者たちでもなかった。サンドヘルの勇者の称号を得た社ですら抗えなかった、恐ろしい後遺症こそが問題だった。

無自覚で出てしまうそれが。

なによりも。

大問題!


「サンドヘルの勇者の称号なんか、ほしくないから!」と、号泣してた頃を懐かしく思う。


日常と化したそれに、すっかり染まってしまった今の自分は・・・


愛する彼女曰く。



「気持ち悪い男」!(号泣)




「極甘地獄の後遺症で、脳みそがすっかり汚染されちゃったんだね」

同期の友人にそう指摘された通り、甘さの加減がわからない男と化してしまった俺。自覚できていないが、あとで人からその言動を聞くと自分でも引いてしまう程…甘過ぎる俺。


俺の彼女、晶は凄くクールな女だ。サバサバした性格で、格好いい自立する女。俺に依存することもないかわりに、依存されることを嫌い、男とは肩を並べ人生を共に戦って行きたいと考えている、そんな女。そんな彼女だから忙しすぎる俺も付き合い続けることができたのだし、これから先もずっと一緒にいたいと思っていた。

なのに。

クールで、サバサバしてて、ベタベタいちゃいちゃするカップルのことを軽蔑してる晶に。

俺は!!




「こんな俺嫌だぁ~!晶に捨てられちゃうじゃないかぁ!」



これも毎日毎日蓮が発する甘々な台詞を聞き続けたせいだ。

もう俺にはどこまでが甘くて、どこまでが普通の会話なのかわからない!

完全に毒されている。





砂をまき散らしながら、砂丘化した廊下を進んでいくと、その蓮の声が聞こえてきた。





「今日も可愛いね。今すぐ食べちゃいたいくらい可愛いよ…」

キョーコちゃんの声も。

「もう、敦賀さんさっきからそればっかり。まだお仕事中ですよ」

「うん。でも、可愛すぎるキョーコが悪いんだよ」

そう言い合いながら、廊下で抱き合う男女は俺の担当俳優敦賀蓮とその彼女である女優京子こと、最上キョーコちゃん。



芸能界を恐怖の渦に巻き込んだ、諸悪というか、サンドヘルの根源



このバカップルめが!!そこは廊下だ!公共の場だぞ!

いつものことだが、奴らはすでに二人の世界へと入り込んでしまっていた。
1人は無自覚で、一人は自覚ありで、その甘すぎる毒を周囲にまき散らし続けている。

たまたま通りがかり、逃げ損なったもの達が埋もれている、サンドヘルなど見えないお互いだけの世界で、極甘な恋を満喫する二人。地獄に引きずり込まれた者たちの泣き叫ぶ声など聞こえない透明な壁で包まれた世界で。

こっちの世界からは丸見えで、丸聞こえで、被害甚大だというのに。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆


「蓮!次の現場に移動するぞ。キョーコちゃんまたね!」

この一言で、瞬時に仕事モードに戻ってくれるのは有り難いけど。

俺の汚染されてるらしい脳みそは、そう簡単に戻らないみたいで。

今んとこ、モード切り替えもできていない。


*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆





「久し振りに会えて嬉しいよ」

「その服凄く似合ってる。キレイだよ」


1ヶ月振りにあった彼女を抱きしめ、そう囁いたときの彼女のあの顔っ!



ついつい、移動中には腰に手をやり、会話中には密着して身体を触ってしまう。


あのときの彼女のあの反応っ!



神様仏様、どうか俺を救ってください。

「気持ち悪い男」として、彼女に捨てられないようにするにはどうしたらいいんしょう。

どうやったら、この副作用というか、病気が治るんでしょうか。

その2 貴島氏の災難 前編 に続く

web拍手 by FC2