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【極甘地獄へようこそーサンドヘルに埋もれた男達ー】
<プロローグ> / <その1 勇者社の不幸> / <その2 貴島氏の災難 前編> / <その2 貴島氏の災難 後編> / <その2.5 それでも君には戻れない(空中楼閣さんから強奪)前編 / 後編> / <その3 勘違い男の最期・完結>
「貴島氏の災難 後編」では、いよいよ地獄に突入です!
脱出は不可能ですから、お弁当と水筒だけじゃ足りませんよ。
家財道具ぜーんぶ背負って、引っ越すお覚悟でどうぞ!
【極甘地獄へようこそーサンドヘルに埋もれた男達ー】<その2 貴島氏の災難 後編>
久し振りの日本での主演ドラマの初回収録を終え、廊下を上機嫌で歩いていると、休憩コーナーの自販機の前に立つ京子の姿が見えた。
早速到来したチャンスを逃す貴島ではない。
自分も飲み物を買いにきた振りをして、声をかけた。
「京子ちゃん!さっきはお疲れ。久々の共演楽しかったよ。次回からもよろしくね」
「あ、貴島さん。お疲れ様でした。あ、ドリンクですか?お先にどうぞ?」
「京子ちゃんも買うんでしょ?いいよ、あとで」
「いえ。どっちにしようか迷っちゃって」
「ふふ、可愛いね、そんなことで自販機の前でうんうん悩んでたんだ」
「あ、今子供だと思ったでしょう?もう。ちょっとだけ…迷ってただけなのに」
拗ねる様子まで可愛すぎる!思わず頭を撫でてしまった。そしてその手を頬に滑らしかけたとき。
京子がいなくなった。
手の届く範囲から。
ほんの一瞬で、50センチくらいだった俺と京子の距離が1メートルになっていた。
ウエストにまわされた長い腕によって、その身を後方に攫われた京子。
そして、その京子の背中には今、デカイ男が張り付いている。
「つ、敦賀くんじゃないか!久し振り!げ、元気だった?」
これまた1年振りの懐かしの役者仲間殿の登場だ。それでも会えて嬉しいと思えないのは、その全身から放たれてる殺気と、一瞬で周囲を凍らせた強烈な冷気のせい?
「うん、貴島くん、久し振りだね」
人を射殺せそうな視線のまま、声は穏やかな敦賀蓮。笑顔なのになんだか怖いぞ。
「京子と何を話してたの?」
自分の腕の中の存在にチラリと視線を流した敦賀くんにつられ、俺も京子を見た。
「きょ、京子ちゃん?大丈夫?顔真っ青だよ!敦賀くん、大変だよ、早く離してあげて。俺が医務室につれていってあげるから」
顔色をなくした京子の様子に、先ほどまでの恐怖?が吹っ飛び、敦賀くんに身体を離すよう訴えた。
「イエ、ダイジョウブデス、ナンデモゴザイマセン、オキヅカイナク」
カタカタと震えながら、おかしな喋り方をする京子。全然大丈夫じゃないから!
だから、
「ほら、敦賀君、早く離して!」
と、手を伸ばし、京子を助けようとしたのに。
あと少しで手が届くということろで、敦賀くんの雰囲気がガラリと変わった。
より深く、自分の身体に同化させようとしてるかのように京子を抱き込み、その顎に手をかけた。そして、小さな顔にキスを落としていく。何度も何度も。甘い甘い視線で見つめながら。
「キョーコ?気分悪いの?大丈夫?」
「ハイツルガサマ、ワタクシメハダイジョイウブデゴザイマス」
「呼び方が違う。今は仕事中じゃないでしょ」
「ハイ、ソウデゴザイマスネ、ツ…レンサマ」
「呼び方おかしいし。俺をちゃんと見て、キョーコ」
少しづつ京子の顔色が戻ってきた。
なんか敦賀君、’俺の存在を忘れてない?
「蓮…」
「なあに、キョーコ」
「もう、怒ってないの?」
「俺がキョーコの何を怒るの?こんなに愛してるのに」
いや、忘れてないな・・・ていうか、ワザと見せつけてる感じ?
はぁ~!いつのまにこの二人付き合ってたんだ?
京子を本気で口説こうと思ってたのに残念!
あれ?京子の顔色…悪いどころか、ピンク色に上気してないか?
凄い…色っぽい!!
そう思った途端、俺を無視していた敦賀君の視線の刃が全身を貫いた。
そして、その数秒後。
先ほどまでの甘さなど、塩も同然と思える極甘な世界に俺という存在は飲み込まれた。
「本当に愛してる。可愛いキョーコ。今すぐ食べちゃいたいよ」
「もう!今は駄目です!」
「ちょっとだけ。ね?俺、我慢できない。キョーコをくれないと死んじゃうかもっ?」
「何言ってるんですか?もぉ!人前ですよ。ちょっ、こ、この手をっ!」
「嫌だ。絶対離さない。キョーコは俺のもん!」
「その手じゃなくて、こ、こっちの不埒な手がっ」
「何?この可愛いお尻も俺のもん!」
「やん!れ、蓮っ!」
「キョーコ可愛い。チュっ」
なんか…口の中がジャリジャリするような。
あれ?この廊下…どうして砂だらけな訳?
いつのまに?
あ!あっちの人もこっちの人も泣きながら砂を吐いてる…
人間の口から何故砂が…
あれ?なんか身体が動かないような…
涙がとまらないような…なんで泣いてるんだ?俺…
どうして、目が離せないんだ…この甘すぎるバカップルから…
口から何かが流れ出してる…
苦しい…
というあたりまでの記憶はあった。そこから先は……砂の中。
*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆
1年間日本を(ほぼ)留守にしていた貴島氏は知らなかったのだ。
芸能界を生き抜く掟の10番目に加えられたあの言葉を。
芸能界で密かに囁かれていたあの噂を。
10:遭遇してしまったら、即座にその場を立ち去るべし!さもなくば、恐ろしい地獄に飲まれることとなろう
それに遭遇し、視線が固まったらもうおしまい。固まってしまった目からは後悔の涙、口からは砂を吐き続ける大苦行がその者を襲う。そして、その辛さに耐えぬいたあとにも、恐ろしい後遺症が訪れることもあるらしい。
本当か、嘘か。
それは遭遇を経験したものだけが知る。
悪夢のような甘すぎる現実。
サンドヘルには埋もれてしまった男達の涙の花が咲く。
そして、今日。砂の中に新たな花が咲いた。貴島氏の涙で。
その2.5 それでも君には戻れない(空中楼閣さんから強奪)前編 / 後編
その3 勘違い男の最期・完結
に続く。
【極甘地獄へようこそーサンドヘルに埋もれた男達ー】
<プロローグ> / <その1 勇者社の不幸> / <その2 貴島氏の災難 前編> / <その2 貴島氏の災難 後編> / <その2.5 それでも君には戻れない(空中楼閣さんから強奪)前編 / 後編> / <その3 勘違い男の最期・完結>
「貴島氏の災難 後編」では、いよいよ地獄に突入です!
脱出は不可能ですから、お弁当と水筒だけじゃ足りませんよ。
家財道具ぜーんぶ背負って、引っ越すお覚悟でどうぞ!
【極甘地獄へようこそーサンドヘルに埋もれた男達ー】<その2 貴島氏の災難 後編>
久し振りの日本での主演ドラマの初回収録を終え、廊下を上機嫌で歩いていると、休憩コーナーの自販機の前に立つ京子の姿が見えた。
早速到来したチャンスを逃す貴島ではない。
自分も飲み物を買いにきた振りをして、声をかけた。
「京子ちゃん!さっきはお疲れ。久々の共演楽しかったよ。次回からもよろしくね」
「あ、貴島さん。お疲れ様でした。あ、ドリンクですか?お先にどうぞ?」
「京子ちゃんも買うんでしょ?いいよ、あとで」
「いえ。どっちにしようか迷っちゃって」
「ふふ、可愛いね、そんなことで自販機の前でうんうん悩んでたんだ」
「あ、今子供だと思ったでしょう?もう。ちょっとだけ…迷ってただけなのに」
拗ねる様子まで可愛すぎる!思わず頭を撫でてしまった。そしてその手を頬に滑らしかけたとき。
京子がいなくなった。
手の届く範囲から。
ほんの一瞬で、50センチくらいだった俺と京子の距離が1メートルになっていた。
ウエストにまわされた長い腕によって、その身を後方に攫われた京子。
そして、その京子の背中には今、デカイ男が張り付いている。
「つ、敦賀くんじゃないか!久し振り!げ、元気だった?」
これまた1年振りの懐かしの役者仲間殿の登場だ。それでも会えて嬉しいと思えないのは、その全身から放たれてる殺気と、一瞬で周囲を凍らせた強烈な冷気のせい?
「うん、貴島くん、久し振りだね」
人を射殺せそうな視線のまま、声は穏やかな敦賀蓮。笑顔なのになんだか怖いぞ。
「京子と何を話してたの?」
自分の腕の中の存在にチラリと視線を流した敦賀くんにつられ、俺も京子を見た。
「きょ、京子ちゃん?大丈夫?顔真っ青だよ!敦賀くん、大変だよ、早く離してあげて。俺が医務室につれていってあげるから」
顔色をなくした京子の様子に、先ほどまでの恐怖?が吹っ飛び、敦賀くんに身体を離すよう訴えた。
「イエ、ダイジョウブデス、ナンデモゴザイマセン、オキヅカイナク」
カタカタと震えながら、おかしな喋り方をする京子。全然大丈夫じゃないから!
だから、
「ほら、敦賀君、早く離して!」
と、手を伸ばし、京子を助けようとしたのに。
あと少しで手が届くということろで、敦賀くんの雰囲気がガラリと変わった。
より深く、自分の身体に同化させようとしてるかのように京子を抱き込み、その顎に手をかけた。そして、小さな顔にキスを落としていく。何度も何度も。甘い甘い視線で見つめながら。
「キョーコ?気分悪いの?大丈夫?」
「ハイツルガサマ、ワタクシメハダイジョイウブデゴザイマス」
「呼び方が違う。今は仕事中じゃないでしょ」
「ハイ、ソウデゴザイマスネ、ツ…レンサマ」
「呼び方おかしいし。俺をちゃんと見て、キョーコ」
少しづつ京子の顔色が戻ってきた。
なんか敦賀君、’俺の存在を忘れてない?
「蓮…」
「なあに、キョーコ」
「もう、怒ってないの?」
「俺がキョーコの何を怒るの?こんなに愛してるのに」
いや、忘れてないな・・・ていうか、ワザと見せつけてる感じ?
はぁ~!いつのまにこの二人付き合ってたんだ?
京子を本気で口説こうと思ってたのに残念!
あれ?京子の顔色…悪いどころか、ピンク色に上気してないか?
凄い…色っぽい!!
そう思った途端、俺を無視していた敦賀君の視線の刃が全身を貫いた。
そして、その数秒後。
先ほどまでの甘さなど、塩も同然と思える極甘な世界に俺という存在は飲み込まれた。
「本当に愛してる。可愛いキョーコ。今すぐ食べちゃいたいよ」
「もう!今は駄目です!」
「ちょっとだけ。ね?俺、我慢できない。キョーコをくれないと死んじゃうかもっ?」
「何言ってるんですか?もぉ!人前ですよ。ちょっ、こ、この手をっ!」
「嫌だ。絶対離さない。キョーコは俺のもん!」
「その手じゃなくて、こ、こっちの不埒な手がっ」
「何?この可愛いお尻も俺のもん!」
「やん!れ、蓮っ!」
「キョーコ可愛い。チュっ」
なんか…口の中がジャリジャリするような。
あれ?この廊下…どうして砂だらけな訳?
いつのまに?
あ!あっちの人もこっちの人も泣きながら砂を吐いてる…
人間の口から何故砂が…
あれ?なんか身体が動かないような…
涙がとまらないような…なんで泣いてるんだ?俺…
どうして、目が離せないんだ…この甘すぎるバカップルから…
口から何かが流れ出してる…
苦しい…
というあたりまでの記憶はあった。そこから先は……砂の中。
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1年間日本を(ほぼ)留守にしていた貴島氏は知らなかったのだ。
芸能界を生き抜く掟の10番目に加えられたあの言葉を。
芸能界で密かに囁かれていたあの噂を。
10:遭遇してしまったら、即座にその場を立ち去るべし!さもなくば、恐ろしい地獄に飲まれることとなろう
それに遭遇し、視線が固まったらもうおしまい。固まってしまった目からは後悔の涙、口からは砂を吐き続ける大苦行がその者を襲う。そして、その辛さに耐えぬいたあとにも、恐ろしい後遺症が訪れることもあるらしい。
本当か、嘘か。
それは遭遇を経験したものだけが知る。
悪夢のような甘すぎる現実。
サンドヘルには埋もれてしまった男達の涙の花が咲く。
そして、今日。砂の中に新たな花が咲いた。貴島氏の涙で。
その2.5 それでも君には戻れない(空中楼閣さんから強奪)前編 / 後編
その3 勘違い男の最期・完結
に続く。