「不安な夜1」

只今「不安な夜1」をリク罠にした魔人的お祭り開催中!
始まりはひとつ、終わりは幾通りも!!な
パラレルエンディング★リク罠 「不安な夜」
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「不安な夜2」


今日は久し振りに敦賀さんの家で食事を作った。

通い慣れたこの家での最後の食事を。




最近になってやっと自覚できた、敦賀さんと私との正確な距離。

以前に感じていたものよりずっとずっと遠いその距離は、今、この瞬間、手の届く範囲にいるはずのその存在すら曖昧に感じさせる程遠いものだった。


たったの数十センチ・・・・・・・手を伸ばせば届く距離にいる人が、誰よりも遠いこの現実。



大スターな大先輩と親しくさせてもらってる?

追いついて、役者としてその横に並ぶのが夢?


部屋に貼ったポスターを眺めて妄想するファンと大して差がない存在のくせに、思い違いも甚だしい。



自分に都合良く作られたスケールで測っていた距離はすべて錯覚だった。


でも、今はちゃんとわかってる。


私はただの家政婦だって。


彼奴と違ってそれを当たり前だなんて思う人ではないけど、感謝の有無はこの際関係ない。

どんなに喜ばれ、感謝されたとしても、私の立ち位置が変わることはないのだから。



好きで好きで堪らないキョーコちゃんという存在が’いる人が私に求めるものなど、出入りの業者へのものと大して変わらない。

プライバシーを大事にする大スターな敦賀さんの側に、偶然にも私という家政婦向きな後輩の存在があって、その料理が’たまたま口に合っただけの話。


手を伸ばせば届くこの距離も、廊下ですれ違ったのと同じ。


遠い、遠い、遠い。


みんな遠い。






(ああ、トーコの気持ちがよくわかる・・・・・・・・人も音もすべてが遠い、お互い無関心・・・・・・・・・・・トーコはこういう時、ボケッとなんかせずに、ひたすら大学の課題レポートを組み立てているのよね?家では机について勉強する暇なんてないから)


ここ数カ月演じ続けている役をより深く掴めるような気がして、私の思考は最上キョーコから、桜木トーコのものへと切り替わっていった。



曖昧な存在となったあの人のことはもう頭に浮かんでこない。






「・・・・・・・最上さん、最上さん・・・・・・・・・・・最上さん!」














「・・・・・・・最上さん、最上さん・・・・・・・・・・・最上さん!


遠くに聞こえていたその声が不快な大きさになった瞬間、私の中からトーコが消えてしまった。


「え?・・・・ああ、はい・・・なにか御用ですか?」

「いや、用とかはないんだけど・・・・・最上さん、何か悩みごとでもあるの?」


仕方なく戻った現実では、優しい先輩がいつも通りの質問をぶつけてきた。
もはや私には悩むことなど何もないのに。


「え?悩み事ですか?いえ、特にないですけど?」

「じゃあ・・・・・・今何を考えていたの?心ここにあらずって感じだったけど」


これも毎度おなじみとなった質問。私の心がどこにいようがどうでもいい癖に会う度に聞いてくるところが敦賀さんらしい。でも、質問には答えられない。
私の心はどこにも行っていないし、お互いに存在が感じられないのは、貴方と私の距離が遠いせいです、なんて・・・・・・・答えてもわかってもらえるとは思えないから。

だから今日も当たり障りのない答えで凌いだ。


「ああ、明日の仕事は早いから、帰ったら早めに寝ようとか・・・・あっ!」

「え?」

「すみません、時間ですので、私は失礼させていただきますね!」


適当に応えているところに、タイミングよく、タクシーの予約時間が’きてくれた。

やっと帰れる!


「待って!車で送るから!」

「お気遣いなく。ちゃんと今日はタクシーを呼んでありますから」


徒歩や電車で帰れないのは残念だが、「車で送って頂く」よりタクシーの方がずっといい。事前に予約を入れた自分を褒めながら玄関に向かい、この家から逃げ出すために挨拶を繰り出す。

「ではこれで失礼します。敦賀さんも早くお休みになってくださいね」
「うん、今日はありがとう。帰り気をつけてね。家についたら電話して?」

「いいえ、もう遅いので電話はしません。心配しなくても大丈夫ですから。では!」

腕時計で予約時間になったことを確認した私は、電話報告を拒否して、ドアの向こうへの脱出を果たした。






敦賀さんとの過去の連絡手段は、先週不幸な事故によりお釈迦となっていた。

その代わりに今、私の鞄の中には、椹さんによって新たに用意してもらった音声通話機能のみの携帯電話とスケジュール管理のメールをやりとりする為のiPadが新たに加わっていたが、それを彼に知らせる必要は感じなかった。

今日で家政婦の仕事は最後にするつもりだったから。




そう決めた私と敦賀さんが連絡を取り合う必要などもうないと思っていたから。









・・・・・・・・・・・を、知らなかったから。


続く。→「不安な夜3」

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