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危険な番宣


「え?キョーコちゃん?」

社の声に反応した蓮は、読んでいた台本から目を離し、顔を上げた。

ドラマ撮影の待ち時間中に、楽屋で彼のマネージャーが仕事のチェックがてら観ていたのは、蓮が来週ドラマの番宣の為に出演する予定のバラエティ番組だった。

番宣利用の多いその番組に今週出演しているのは、蓮の後輩であり、愛しい存在である少女だった。

その姿を画面の中に確認した蓮は固まった。

隣りにいる社も動揺中。

スタジオではドラマの宣伝VTRが流されているところだった。

生出演している京子の姿は、ワイプで確認できる。

今日の姿はドラマの役柄なのか、まだ19歳とは思えない程大人びていて、とても奇麗だった。

そして、世界一可愛い。←蓮アイズ

それはいい。

まったく問題ない。(馬の骨が湧いてくること以外は)

問題はVTRの方にあった。

役名は把握できていないが、ベッドに腰掛けている京子には問題はない。

服装は今日の番宣と同じ服でこれまた問題なし。

携帯電話で楽しそうに話しているとことも以下同文。

でもその足元がイロイロ問題ありだった。

何故にヒールで半裸の男を踏みつけながら電話しているのか。

どうしてそんなに楽しそうなのか。

一体どんな役を演じているのか。


それを観て固まってしまったのは、役柄を想像することが怖い蓮と、彼に想像させるのが怖いマネージャー。

しかし、それは後々の話。

今の二人の気持ちも反応も、視聴者と共にあった。

スラッと伸びた美しい足がのせられているのが、只の踏石かと思ってしまう程、足元の存在を無視して電話に熱中する京子(の役)。

男の裸の背中をピンヒールで甚振りながら、その顔には実に美しく、そして無邪気な微笑みが浮かんでいる。

その姿にゾクゾクとしてしまう全国の男達。

「……」

「……」

言葉を発することが出来ない蓮と社に向かって、ふいに語りかけたのは、生出演の京子。

「今夜10時スタートの夏のトビラ、観てくださいね?」

アップにされた恍惚とした表情の美女の姿に、体温を急上昇させてしまった男達は、画面がCMに切り替わったあともしばらく、茹だったままの頭と身体を維持していた。

CMが明けた画面の中では、すでに番宣のコーナーが終了しており、そこにはもう京子の姿はなかった。

それを確認し、漸く二人は詰めていた息と共に、熱を吐き出した。

自身の出演するドラマのスタッフが出番がきたことを知らせにくるまでの残り10分間、その楽屋を支配していたのは、気まずい沈黙であり、それはその日1日続いたという。


Fin



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