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なんとなくな小話 「家なき子の決断」


「やっぱり、家って大事よね……」

社会派ドラマに出演したキョーコは、撮影後も数日間に渡り、“自分の家” について考えていた。

東京に出てきてから借りたあの部屋は、初めて自力で手に入れた家であると言えるかもしれない。

同居者のことはともかく。

だるまやのあの部屋は、好意で提供してもらった下宿という名の仮住まいではあったけれど、今の部屋に引っ越す際には大将や女将さんに “実家” だと思って帰ってくるように!と言ってもらえたから、烏滸がましいかもしれないけれど、“自分の実家” だと呼ばせてもらってもいいかもしれない。

しかし。

(今は?)

「もしかして、今の私ってホームレス同然?」

自分で出した答えに思わず唖然としてしまう。

「この部屋を使ってもいいよ」

と提供してもらっているあの部屋。

京子の住まいがだるまやだとバレた際に蓮により与えられたあの住まいは果たして “家” と呼べるのだろうか?

「あそこを我が家だなんて、とんでもないわ!!」

そう。

そんなことはとてもじゃないけど言えないキョーコである。

じゃあ、家はどこ?と考えてみれば、ここが自分の家であると胸を張っていえる場所などなく。

「ドラマで演じた、友達の家を渡り歩いているナミと同じ?私って今、住所不定者?」

(そんなっ!!駄目だわ、もっとちゃんとしなくちゃ!!!)

現在の自分がホームレスな “家なき子”であると結論づけたキョーコの行動は素早かった。

過去に、ドラマ「BOX"R"」で共演者し、現在はその映画版でも共演中の薪野穂奈美に電話したのだ。

「おはようございます。京子です!ねぇ、薪野さん。先週貴女が引っ越した叔父様が所有されているあのマンションだけど、まだ空室があるって言ってたわよね?是非申し込みたいんだけど。え?ほんと?うん、うん、有り難う。あの角部屋ね?うん、え?この電話だけで、本契約扱いにしておいてもらえるの?助かるぅ!!うん、うん!!今日の夜から?うん、大丈夫!有り難う!叔父様によろしくお伝えください」

長い付き合いの薪野は、本契約まですべておまかせて、おまけに本日の夜には引っ越し可というなんとも有り難い返事を即座に返してくれた。

元々、京子に住んでほしいと引っ越し祝いの際に、さりげなく空き室(の中まで)を見せていた、薪野とその叔父である。

叔父からすれば、可愛い姪の住まいのあるフロアには知り合いに住んでもらったほうが安心。

もしも京子からその話があれば、即座に受け入れてもいいと姪である薪野にもキチンと伝えてあったのである。

そんな訳で。

思惑通り、京子から申し出があったからには、即断即決。

他の物件など見る暇もなく契約を済ませたいと思うのは当然でもあった。

そんなことになっているとは夢にも思わない蓮は、ロケから帰還後、もぬけの殻になった部屋の中で、丁寧な置き手紙を発見することとなった。


そこから数週間に渡り、キョーコの姿が影もカタチも残っていない部屋に帰る度に、何故早く告白をしておかなかったのかと……同居ではなく、同棲に持ち込んでおかなかった自分のヘタレ加減を大いに嘆くことになるのだが。


同世代の友人と同じマンションに暮らすという胸躍る生活を満喫し始めていたキョーコとの同棲を実現するまでにはそれから1年の月日を要したという。

fin

非常に反応の少ない魔人駄作。
ここんとこ優しい方々が、コメントを入れてくださる様になりました。
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