拍手小話からの移動です。加筆修正しています。
前中後編でしたが、手直しで文字数がどうなるのかわからないので、ナンバリングに変更しました。

風が吹くとき 1


なんとなくな小話
風が吹くとき 2


いつかは帰ろうと思っていた。

いつになるかはわからないが、遠くない未来、彼の国へ帰る。

それが彼の目指す未来であった筈だ。

俳優としても、プライベートな個人としても。

そして、その “いつか” はもっと早くてもヨカッタはずだし、今でもいい筈なのだ。

決意さえつけば。

だが蓮にはその決意が出来なかった。

そんな彼を後目に、自身のおこした風の中で羽を広げ、空に飛び出そうとしているキョーコ。

それは、先輩と後輩という心地よい関係の中に浸っていたい蓮を打ちのめすような出来事だった。

自分も決意しなければいけないと思っても、不安に揺らぐ心がそれを邪魔した。

このままキョーコがいない日本にいたらどうなるか。

それは簡単に想像できる。だが、動けない。

足元が崩れさってしまったような錯覚を覚えている蓮には、1歩踏み出すという行為がとてつもなく難しく感じられた。

彼の国に戻れば、いや、完全には戻らなくても、あちらでの仕事もこなすようになれば、キョーコとの距離など感じずに済むというのに、その事実を思い出すこともできず、闇の中で溺れる自分しか思い浮かべることができない。

身体中を覆い尽くすような凶暴な心の闇を持っていたのは過去のことであり、現在ではその闇も自身を構成する大事な要素となっているにも関わらず。

暴走してもいない闇を無理矢理引っ張りだし、そこに逃げ込もうとしている蓮を、ローリィは静かに見つめていた。

(本当にこいつはヘタレだな。最上君が絡まない恋愛以外でもこうとは……いや、無関係ではないか。最上君に告白出来ないヘタレであると同時に、最上君がいないと挑戦もできないヘタレってことだからな。よくも悪くも最上君に依存しまくってやがるところが心配ではあるが……今はまだ仕方がねぇか)

臆病すぎる蓮に少々呆れながらも、救いの手を差し伸べようとしたローリィだったが、それは彼の有能な執事によって阻止された。

耳元でなされた報告を聞き、ニンマリと笑うローリィ。

「いいタイミングだな。よし、いますぐ通してくれ」

「畏まりました」

目の前で行われている主従のやり取りにも反応しない蓮を一瞥したあと、ご機嫌な様子で指示をだし、その視線を扉の方に向けたのだった。


執事が扉の向こうに消えてから数分後。

社長室にノック音が響いた。

「おう、入ってくれ!」

「失礼します!最上キョーコ、ただいま戻りました!!」

先程まで自分の殻の中に閉じこもっていた蓮の耳にまっすぐに届く声。

ドアの開閉の音と共に聞こえたその声により、蓮はあっけない程簡単に自分を守ろうと必死に掴んでいた闇を手放した。

「え?最上さん?」

振り返った蓮の視界に飛び込んできたのは、愛しい、愛しい、少女の姿で。

呆気にとられながらも、その存在を食い入るように見つめた。

「ハイ!!先程帰国致しました!」

「おう、お疲れさん。長旅で疲れてるだろうに、態々挨拶に来るとは最上君らしいな」

「いえ!まだ4時ですから、家に帰って寝るには早いですし、すぐに帰国の挨拶に伺うのも当然のことです!!それに、ご報告というか、至急お知らせしたいことがございまして!」

「俺にか?」

「はい!社長さんと、敦賀さんにです」

「え?俺?」

黙ってキョーコを見つめていた蓮が驚いた声を上げる。

「はい!!」

そして、キョーコが話し出したのは……


3に続く

ピンチのときには、闇にも頼る蓮さんの巻


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