拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

文中の人身売買についてはご不快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ファンタジーの世界の人が馬で移動していた時代の話ですので、現実とは別と考えてお許しくださいませ。

あの森を目指して 1 / 2 / 3 / 4 / 5

拍手御礼「あの森を目指して 6」

───きょ、キョーーレツだわぁ。(TωT)

「鼻がまがる!!」と他の者とは少し離れた位置に置かれたその男の入った籠に辿り着く前に回れ右してその場を離れる客がほどんとであったが、キョーコは臭いに辟易しながらも、男の前までやってきた。

───うわぁ、このヒトもの凄いボロボロっ……ああ、ああ、もう目が完全に逝っちゃってるわね~!手負いのクマより怖いわ~!

内心では目の前の男の発する強烈な悪臭とその身体状態、精神の状態に怯えていたが、行動は冷静沈着であった。

売り物を鑑定するかのように、周囲をゆっくり回りながらその異臭を放つ人間の身体をチェックしていく。

───歯はオッケー、腕と足と肋骨あたりはヒビとか入ってそうね。脇腹と背中と足の傷は膿んでるし。んん、髪と肌が変色してる?身体の中にもなんらかの毒が入ってるってことよね。うう!!不潔なのと膿みのせいもあるけど、排泄もまともにさせてないからこの臭いなのね。

「ああ、お客さん!気づかなくて悪かったね!この男、気に入ったかい?お目が高いね!珍しい人種でしょう?いや、今は怪我もしてるからちょっとばかし元気がないが、傷さえ治れば何かの役に立つと思いますよ」

キョーコがじっくり見ていたのに気づいたのか、店の者が大慌てで飛んできて、男を買うように熱心にススメてくる。

しかし、キョーコはそこらの少女ではない。大勢の商売人に認められた売り買いのプロである。内心では既に買うつもりでいたが、そんな気配は微塵もみせずに話をし、情報を集めていく。

「確かに珍しい人種かもだけど…猛烈にズタボロだし、何より臭過ぎない?」

「洗えば奇麗になりますよ、きっと!」

「じゃあ先に洗っておけばいいのに。これだけ臭いと持って帰れないわ」

「い、いや、お買い上げしていただけるのであれば、少し洗ってからお引き渡ししますから!」

「えぇー!少し洗う程度でなんとかなるのぉ?で?これは一体何の役に立つの?沢山暴れたから、若くてガタイも良いのにこんなことになってるんでしょ?それに見た感じ怪我も多いし、買ったらすぐに死んじゃうんじゃないの?」

汚らわしいモノを見る目で籠の中の男を見つめながら売り子に文句を言うと、買い手が付かずに困っていたのか、売り子は必死になって良い品であるとここで売りに出されるまでの経緯を説明しだした。

「お客さん、若いのにしっかりしてるねー。怪我は若いしすぐに治りますよ!今じゃズタボロですけど、こいつって、最初の何カ所かは男妾として売られてたそうなんですよ!だからね…今は汚いし、目つきも悪いからそう見えないけど、きっと磨けば良い男になるんですよ。まあ、ちょっとばかし男妾には無理な性格だったみたいで色々やらかしたみたいですけどね。まあそれで病気になったり怪我したりして見た目が悪くなって、そのあと仕方なく売り飛ばされた力仕事の現場でも狂ったみたいに大暴れしたそうでね。まー、そんなこんなで今こんな感じでここで売られてる訳です…でも、大丈夫!きっと、いや絶対にもう凝りてる筈です!怪我を治してやったら、きっと感謝して役にたつようになりますよ!」

───なるほどね。

「ほんとに洗えば奇麗になる?少しは役にたつ?」

「なります!たちます!!」

「そぉ?じゃー、この半額にするなら買ってもいいわよ?勿論、引き渡しは洗ってから。洗っても相当臭いだろうし、暴れられるのも面倒だから、ちゃんと袋に入れてね?」←大きな袋が必要ですね。

「い、いやでも、お客さんっ!は、半額でそんな手間は…洗うのも袋に入れるのも大変なんですよ?」

「怪我からくる臭いはともかく、汚物と垢にまみれた身体は許せないわ。人の手で洗う必要はないわ。まず全身をお湯に少しつけてから、水をかけて身体の表についた汚れを流して、そのあと薬湯に浸けて頂戴」

「薬湯って!そんなものウチにはありませんよ!」

「薬湯の素は渡すし、着替えと膿みがくっつきにくい袋もあとで届けるわ。暴れない様にする薬もね」

売り子の耳元で「損もしないし、手間もそんなにかからない」と囁けば、よほど売ってしまいたかったのか、あっさり話がついた。


第7話につづく


こんな登場でごめんなさーい。石投げないでーー!!

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