拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

文中の人身売買についてはご不快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、ファンタジーの世界の人が馬で移動していた時代の話ですので、現実とは別と考えてお許しくださいませ。

あの森を目指して 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6

拍手御礼「あの森を目指して 7」

───あのズタボロ具合じゃあ、自由にしてあげるから、あとは自力で頑張ってね!のパターンは無理よね。

これまでの経験からしても、自国出身でもない人間を買うこと自体は珍しいことではない。あまりにも不憫だと思えば、他国の人間に大しても慈愛の精神でお金を出すこともあった。

特に見返りは求めていなくとも、今回の様に大陸の外れにある小国の出身らしき者を救った際には情報と言う名の知識を得ることができることもある。

商売には直接繋がらないことがほとんどであるが、遠方の国の位置や名前、飢饉や戦争中といった情勢を知ることは決して無駄なことではない。手広く商売していればいるほどそういう情報は商人にとっては大事になった。

言葉も通じない場合も多かったが、抜け目のない商売人のこと。どんな風貌の人間がどんな風に聞こえる言葉を話していたかを記録に残し、それも情報として大切にしていた。

何の義理もない人間の為にお金を出し自由を与えたにも関わらず、感謝されるどころか憎々し気に睨まれることもある。だが、元々犯罪を犯して売られている者達ではないし、お金を出す側もそれなりに慎重に相手を見て決断を下すので、自由にした途端に何か問題を起したなどという話はあまり聞いたことがなかった。

───まぁ身体の状態が酷いから…どうなるかはわからないけど、治療中にちゃんとどんな人間なのか見極めないと…自由にした途端殺傷沙汰とか…(ブルブル)…被害者が私だけならいいけど、違ったら洒落にならないわよね。ああ、責任重大だわぁ。

キョーコが今回あの見るからに危なそうな男を買ったのは、不憫すぎたからでも、情報ほしさからでもなかった。

少しばかり思い入れのある国の人間であったから興味を持ち、近づいた。

近づいたら、あの印を、見つけた。

見つけたあとに、彼は近いうちに命を落とすであろうことに、気づいた。


だから、買った。



───彼が善良なる不幸な男であればいいけど、もしも違ったならば、そのときは…。

それだけは覚悟していたが、予想もしていなかった大荷物を背負ってしまったことで自身の本来の目的が果たせなくなる恐れもあることに今更だが気づいたキョーコは、大きな溜め息をつきながらこれからのことを思った。


この時点で、自動的に寄り道しながらののんびり旅コースが決定。

目的地まで安全に快適にまっすぐ進む為の護衛を格安やタダで雇う旅プランは泡と消えたし、明後日の朝までかけてじっくり旅の支度が出来るどころか、予定外の買物や準備に追われ、大忙しとなった。

───こんなに頑張ったあげく、道中ウッカリあの男に殺されたりしたら、ホント報われないわね。

その可能性は少なくない。今の段階では襲うような体力はないだろうが、少しでも元気になればあの男はキョーコからコソコソ逃げ出してくれることなどぜず、堂々と(?)迫力満点な殺気を放ちそうな気がするのだ。

───この街から出れば…自由なんだけど、どうしてだか信じてもらえる気がしないわ。籠に入れているときに見た、あの逝っちゃってる目のせいかしらね?


───いやいや、解き放っても安全な人間かどうかを私が見極めるまでは、自由にしちゃ駄目なんだから、今はまだ信じてもらえなくても…いやでも…


自分の選択に自信がなくなりかけたキョーコはグルグルと迷いながらも、必要な装備を買ったり作ったりと、寝る間も惜しんで動き続けたのだった。


第8話につづく


キョコさんオンリーターン終了…かも?

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