拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

あの森を目指して 1 / 2 / 3 / 4 / 5 / 6 / 7 / 8 / 9 / 11 / 12

拍手御礼「あの森を目指して 13」

地元民に「毒の森」と呼ばれているそこには、薬師が住んでいたと思われる小さな小屋があった。少なくとも20年は人の手が入らなかった筈なのだが、それは崩れもせずにそこに建っていた。

その小屋の手前には小さな井戸があり、裏手を少し行けば湧き水をたたえる泉も見つかった。どちらも透明感のある清らかにしか見えない水である。しばらく観察してみれば、飛んできた小鳥が不思議そうな顔で水を飲み、去っていった。

「虫も平気でいるし、鳥の水場にもなってるなら、毒水ではなさそうね」

小屋の周囲は石畳になっており、毒草を気にせず馬を繋ぐことができる馬留めも小屋の横手にあった。流石にその上にあった雨よけの屋根は朽ちかけていたが、修理出来ないこともなさそうだった。

老薬師が亡くなってすぐには森に入る者がいたと聞く。金目当てに薬草の知識もないのに森の草を摘んで命を落とす者が多かった様だが、小屋の荷物だけを狙うなら危険はそうない筈である。きっと略奪者もいただろうに、小屋の中には踏み荒らされた形跡はなく、ただ作り付けの家具だけが埃を纏いながらも不自然な程空っぽの状態で存在を主張していた。

まるで新入居者を待つ家の様である。

古着だろうが何でも売れる時代である。小屋を荒らすことなく、老薬師の生活用品や薬草の類だけを草1本残さず奇麗に持ち去ることを不思議には感じないが、どう見ても20年以上放置したようには見えない室内の埃の量には疑問を感じた。

室内には、キョーコが過去に売り買いした覚えのある異国の暖炉も見つかった。部屋の中央に据えられたそれの最大の特徴は煙が出ないことであるが、暖炉本体には大した仕掛けも価値もない。高価で特殊なのはその燃料なのだ。危険な場所を行き来する裕福な商人には燃料とセットで販売した携帯用小型暖炉がよく売れたが、一般にはほぼ出回っていない品である。

「もしかして、こっそり出入りしている薬師がいるのかも?」

老薬師が1人で住んでいた頃には壁際に並んでいる石釜を使っていたと思われるので、この異国の小型暖炉は出入りしていることを隠したい薬師が持ち込んだのかもしれない。

「煙が上がれば森に誰かがいるとわかっちゃうものねぇ」

誰だかわからないが、そのいるかもしれない薬師に感謝である。

只の泥だんごにしか見えない特殊で高価な個体燃料も、石釜の上の壁に「壁の一部」かのように貼付けてあった。幸いにして、キョーコはこの燃料の作り方を熟知していたし、その材料も森の中で見つけていた。これで薬師に迷惑をかけずに使った分を補充することも可能となった。

地元の者が怯えていた毒草の類いも、それを生業としていないにも関わらずかなりの知識量を誇る薬師(本人曰く、もどき)でもあるキョーコが見れば、計画的に植えられたものであることもわかった。

亡くなった老薬師も、その後出入りしているかもしれない薬師も、かなりの上級者であるのだろう。

「へーー、素人やそこらの薬師にはわからないかもしれないけど、この森ってお宝の宝庫だわ~!でも、薬師さんが前に来たのは、5年以上前よね~」

毒の森と呼ばれる薬師の秘密の畑の状態と家の状態からそう判断したキョーコは、その薬師達に敬意をしめしつつ、その恩恵を受けることを決めた。




森の中でちゃんと生活出来ることを確認し終えたキョーコは、森の入り口付近に隠していた馬車を森の中のその場所まで移動させた。

勿論、万が一にも毒草を食べない様に馬には口篭つけ、その足は水分を通さない布でしっかり保護した。馬車の下の台車の “荷物” が転がり落ちたりしない様に袋の周囲をしっかり固定し、台車に開けてあった “穴”も忘れずに蓋した。

そうして辿り着いた先では馬をまず馬留めのある“安全地帯”に保護して水と飼葉を与えたあと、馬車から切り離した台車を井戸の側に移動した。

しかし、その上に積んだ“荷物”の世話は後回しにして、先にしなくてはいけないことがある。

固定していた綱を解き、 “荷物” の口にそっと水を含ませることだけをして、まずは小屋の中の掃除にとりかかり、そのあと馬車に積んでいた大量の荷物を小屋の中に運び込み、それを奇麗に収納していく。

それが済めば、煙の出ない暖炉を使って大きな鍋で水を沸かし、お湯に浸した布で自分の身体を軽く拭き清めたあと、夕食の準備にとりかかった。

別の鍋に根菜と香草、乾し肉を入れ暖炉にかけたあと、キョーコは布などこれから必要なものを入れた袋と共にお湯の入った大鍋を井戸の袂まで運んだ。

側に寄ってみても、台車の上の “荷物” こと彼女の患者が目を覚ました気配はない。

「うーん。そろそろ目を覚ましてくれないと、困るんだけど~」


第14話につづく


今回も二人の会話がぁあああああ!!ないですね。すみません。
辿り着くのは??話になりそうです。← 
荷物の彼、早く起きてーー!


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