拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

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拍手御礼「あの森を目指して 30」

質問を間違えてしまったと焦る男だったが、キョーコが直ぐ様極上の微笑みを返してくれたことで、それを取り消すことなく応えを待つ道を選んだ。

───間違えたけど、そんなに失礼な質問じゃ…ないよな?ちょっとナンパっぽいのがアレだけど。// でも、彼氏がいるって言われたらどうしよう。

聞きたいけれど、聞くのが怖い。そんな気持ちで緊張しながら返事を待っていた男だったが、見惚れる程の輝く笑顔で彼を見下ろしているキョーコのその目がちっとも笑っていないことには気づけなかった。

《ニッコリ。で?貴方の質問とやらは何でしょうか?》

───あれ?もしかして、“彼氏” は知らない単語だったのか?

今では同郷の者かと思える程流暢に男の故郷の言語を操っているキョーコだったが、始めの頃には多少のぎこちなさを感じさせてはいた。

話すことは出来ても、日常的に使用する様な言語ではないのであれば、知らない単語があるのはむしろ当然のことである。

《え?あの…かれ…いや、恋人はいるのかと…》

どうやら “意味” が通じなかったらしいと、そこで諦めればいいのに一度口に出した質問の答えを欲してしまった男は、ここで重ねて聞くと言う失敗を仕出かした。

《こんな女に治療される生活はもう我慢出来ないから、早くここを出る方法を聞かせろと言うことですか?ニコニコ》

───え?俺は今恋人がいるかどうかを聞いたんだよな?あれ?早くここを出る?いや、それはどうでもいいけど、我慢ってなんだ?

だが、まだ男は自身の失敗には気づけずにいた。態々 “恋人” と言い直したことで、この質問がごまかしの聞かないものになってしまったことにも、自分が希望する質問の答えを得る代わりに、別のものを受け取ろうとしていることにも気づいてはいなかった。

望んでもいない、むしろ避けたいと思っていた未来を、あっという間に “いまこのとき” に引き寄せてしまった男は、それを加速させる言葉を自覚もなく口にしてしまう。

《出る…のはいいけど…我慢?…それより俺は、君に恋人はいるのかと…聞いて…》

《我慢はしたくないと?…大変申し訳ないですが、それでも即は無理です。ここを出るにはある程度の回復を見せていただかないと。ニッコリ》

この展開に全くついていけていない男だったが、なんとなく否定だけはしないといけない気がして、声を上げた。

《い、いや、あのっ!えーーと?》

《でも、嫌なのですね。…ならば明日から毎日10食程食べて数日のうちにしっかり太ってみせてください。そうすれば、馬に乗せて送り出して差し上げますよ?ニッコリ。勿論明日からでは遅いと仰るのであれば、今日これから数食は食べていただけるように致しますし?》

しかし、「いや」だの「あの」だのでは、キョーコには何も伝わらない。

───え?送り出すって俺を?1人で?そんなっ!どうして?

ここに来て男は漸く、自分がこの小屋から1人で旅立つ展開で話が進んでいることに気づいた。

───早く、誤解を解かないと!

《そ、そうじゃなくっ…違っ!》

───いや、でも、何を誤解されているんだ?嗚呼!!どう言えばいいんだ、俺は!

《違う!!》

彼には何がどう違うのかの説明も出来ないのだから、ただ違うと言う言葉だけを繰り返すことしか出来ない。

《と、ともかく、違うんだっ!》

否定の言葉だけを繰り返す目の前の男をキョーコはじっと見つめ、頷いた。

《…違う?…ああ、そうですよね…わかりました。ニコニコ》

《うん、違うんだっ》

よくわからないうちに進む恐ろしい話。それを止めることが出来たのかとホッとした彼に、キョーコはキラキラと輝く笑顔で応えた。

《それじゃあ、今日だけは我慢してください。明日には荷物の準備をして、看護の人間をつけて送り出せる様にいたします。そんな身体の状態で送り出すのは、責任放棄したみたいで心苦しいですが、ご本人のご希望ですものね。いらぬお節介をしてすみませんでした》

《え?》

《今から大急ぎで荷物を作りますけど、その間に出来る限り食事しておいてください。そこの棚にあるものはすべて食べていただいても大丈夫です。百粒は美味しい超栄養完璧スタミナドリンクは樽に10回分作ってありますので、それをベッドの側にお持ちしますね》

《ちょっ!まっ》


何がどうなったのかまったく理解できないうちに、明日彼が旅立つと言う話が決まってしまった。

焦る彼を余所に、キョーコは小屋の中でテキパキと必要な荷の準備を始めていた。

《食料と人は村で手配するし~、服はあれとこれでいいかしらね。そのあと薬を用意しましょう》

そんな彼女をどう止めればいいのか、男にはわからない。

───どうしてこんなことに?俺は何か変なことを言ってしまったのか?…もしかして、本当は俺が邪魔だったのか?

男は泣きそうになりながら、今、棚の上のものを次々と降ろしているキョーコの背後まで車椅子を動かした。


第31話につづく

ああああ、地雷とは怖いものですねーー!どうなるのかしらん

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