拍手からの移動のパラレルファンタジーです。

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拍手御礼「あの森を目指して 31」

───彼氏?恋人…?へ~、今はそう見えないけど元は男前さんなんですものねぇ。それでも、こんな身体の状態でさえ、そうなことを気にするとは思わなかったけど…まあ、モテモテだった男からすれば許し難いのでしょうね。私みたいな存在は。

“恋人” と言う単語はキョーコにとって、頬を染めて語る様な話に繋がる物ではない。かといって、言葉自体に特別な意味はないし、思い出もない。

しかし、それは嫌な過去を思い出すキーワードのひとつとして、彼女の中では分類されているものであった。




5歳になるころから働いていた商家での生活には特に不満はなかった。

幼い頃に与えられた馬鹿な跡取り息子のお守りという仕事は決して楽しいものではなかったが、当の息子がキョーコと一緒に過ごすことを嫌がったせいもあり、その時間は自由に使えることのほうが多かった。

大きな街で幅広い商いをしていたその商家 “松の屋” には様々な業種の大人達が出入りしており、キョーコは暇になどなる暇もなく、その大人達から知識を得ることに熱中する子供時代を過ごした。

本業のことも、それに役立つと思われることも、ただの趣味にしかならないことも貪欲に沢山学んだ。

商品の売買で必要な知識、料理や針仕事、語学や歴史学、そして、薬学や護身術は、幼い頃から街を出るまでずっと学び続けることが出来た。

医術や攻撃を主とする剣術も期間は短いが、それなりに学べた。

彼女は教師とも言える人間にも恵まれ、その道で生計を立てているほとんどの者達より多くのモノを身に付けることに成功していた。

本業においても彼女は期待以上の成果を残し、このまま老いるまで “松の屋” で働くことは、本人にとっても雇い主である“松の屋” の者達にとっても、何の問題もない歓迎すべき未来像であると言えた。


だが成長するに従い、“松の屋” はキョーコにとって居心地の良いだけの場所ではなくなっていった。

例え雇い主や周囲の者がどんなに良い人達だろうが、そこは彼女にとってどんどん危険な場所となり、遂には出て行かざるを得ないものとなったのだ。


“松の屋”の主人達を含む故郷の一部の者達は、キョーコの才能だけでなく、馬鹿な跡取り息子の馬鹿さ加減をよく理解していた。

キョーコがついていれば大丈夫。馬鹿息子を上手く操縦して、街も家も勢いを維持してくれる筈だ。

そんな期待を抱いていた、“松の屋”の主人達を含む故郷の一部の者達も、キョーコと馬鹿息子を結婚させようとなどは思っていなかった。

伴侶としては到底オススメできない馬鹿息子をキョーコに押し付ける気はないが、ただ、右腕として、いや、影の実力者として、息子の代にも “松の屋”を支え続けてほしいとだけ願っていたのだ。

しかし、この親達の考えやキョーコの価値を、年中無休所構わずで「キョーコは役立たず」だと触れ散らして歩く男、跡取り息子本人はまったく理解していなかったし、顔だけはいいその息子に惚れた女達も理解してはいなかった。



「どうしていつも役立たずのあんたが商談の旅についていくの?」

馬鹿息子の取り巻きの中の1人で、自称未来の妻である女はキョーコを見かける度につっかかってきた。

「旦那様のご命令ですから」

遠くの国や街まで商談に行くのは仕事であり、その仕事を命じられれば奉公人であるキョーコには従うという道しかない。

最初にこの質問をされたときには、そんな当たり前のことが何故理解できないのかキョーコにはそれが理解できなかった。

聡いキョーコにはすぐに「真性の馬鹿とは、こういう人間のこと言うのだ」ということが理解できたので彼女のその疑問は解けたのだが、相手の疑問は一生解けそうにないと感じていた。


「俺様だけで十分なのに、コイツ親父達に気に入られててさぁ。俺に全部預けりゃいいのに、取引の金や道中に必要な金はコイツに渡すんだぜ?お陰で俺の商才が発揮しにくいったら!」

「この女のせいでショーちゃんの才能が潰されちゃうなんて、奉公人失格ね!」

「…」

最初はたまたま顔を見かけたときだけだったのが、キョーコが仕事をしている場所に態々入ってきては、自分の仕事をこなすでもなく、ただ難癖をつける様になった馬鹿息子と自称未来の妻。

取り巻きの女は他にも大勢いたが、仕事場に入り浸ってまでつっかかってくるのはこの女だけであった。

あまりにもしつこいので、キョーコは早い段階で相手をするのをやめ、まるで聞こえていないかの様に仕事を続けてはいたが、どんなに無視を貫いても相手はめげることなく、嫌がらせとも言えるその行為を続けてきた。

「折角パッーっと豪勢なもん食べたり、セレブな俺に相応しい部屋に泊まろうにも、染みったれた小遣い程度の金しかないから、それも出来ねぇし。ほら…接待とか大事だろ?貧乏人で所帯染みたコイツにはそんなこともわかんねぇんだ」

「えー!もうクビにしちゃいなよ、こんな役立たず女!」

「出来るもんならとっくにしてるぜ!俺だって、こんな役立たずな阿呆女よりもっと使える人間が欲しいからな!でもよ~親父達が何故か気に入ってて、ガキの頃からずっと、やたら俺に同行させるんだよな」

「じゃあ、こっそり追い出して、いなくなってもらえば?」

「出てけって?でも、まだ雇い主は俺じゃないからなぁ。こいつが荷物まとめて出て行こうとしても、親父達が許さねぇよ。あーあ。俺の輝かしい未来はコイツのせいで、灰色だ…」

「元気だして、ショーちゃん!私も良い方法がないか考えるから!」

「ああ、せめて役立たずなキョーコの見た目がもう少しだけでもマシなら、側に置いてやってもヨカッタのになぁ」

「えー!私がいるのに、少し見た目がよくなったらこの女の存在を認めるの?」

「違ぇよ。接待に使えるレベルの女ならそういう風に使ってやるって話だよ!大体、貧乏人で所帯染みてる上に、こんな色気も胸もない役立たず女を俺が認める訳がないだろ?そもそもコイツは女でもねぇよ。俺は断言する!こんな出来損ないを女として認識出来るような奴はこの世にはいないね!素っ裸にして街に放り出しても、男は喜ぶどころかガッカリするんじゃねぇか?ほら、目の保養の反対って奴だな!欲情とか有り得ないレベルだし、こいつに反応したとすれば、それは欲情ではなく、病気だ!あはははは!!」

「やだ、ショーちゃんたら、酷ぉい~!ふふふ」

キョーコ曰く、この大根役者コンビのワンパターン劇場は、ちっとも面白くなかったが、毎回態とらしい馬鹿笑いで幕を閉じる大根達は実に楽しそうであった。

だがそれが例え何百回であろうと、どれだけその内容が不愉快であろうと、キョーコがこんな会話を聞かされている“ダケ” な内はまだ平和であった。

第32話につづく

キョコさんの過去への入り口が開きました~。ガリガリ骸骨男君のピンチの続きはもうしばらくお待ちください。
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